pdp講演会「『食』を変えれば『からだ』は変わる!」

第一部「 ケトジェニックダイエット・その後」
講師:塙 由紀子先生 茨城県笠間市開業pdp理事

第二部「どう始める?ケトジェニックダイエット」
講師:白土綾佳 先生あやか内科クリニック院長

日時:2022年11月6日(日)13:00~17:00
場所:茨城県笠間市あやか内科クリニック+Zoom
進行:越智豊pdp専務理事
挨拶:前村学pdp理事長

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オープニング


越智:本日はお忙しいところ、pd普及の会の講演会にご参加いただき誠にありがとうございます。僕は司会の越智といいます。それでは主催者を代表して、pd普及の会理事長、前村学よりご挨拶を申し上げます。

前村:pd普及の会の紹介は後ほど越智専務理事にお願いします。私が住んでいるところは伊勢神宮がある三重県伊勢市です。昨日の午後伊勢を出て、名古屋、品川を乗り継ぎ、友部まで約5時間半かかりました。今日の講演会は2時間の予定ですので、コスパ(タイム・パフォーマンス)は最悪です。では何故私がここにいるのか。それは、この講演会を成功させるためです。実は昨年もこの会場に来たのですが、その時はテクニカルサポートの担当でした。会にとってもZoom講演会は初めての試みで不安材料がありました。今の時代ネットを使えない人は多くないのですが、細かな設定などが十分でないこともあり、セッティングにはかなり時間をかけました。私自身はサポートをしながら白土先生の講演を聴くことができ大変ためになりました。持病もある私は、全て食事のせいではないとしても、このままではよくないなと感じたことを思い出します。ただ、食べるということは楽しみですから、本当は控えるべきものでも強い誘惑に負けることは未だに多いです。今日はそのあたりの具体的な克服法なども教えていただけたらなと思っています。それから、最近よく耳にするようになった、医科歯科連携ですが、実際に医師会の先生と一緒に仕事をすることはあっても、ここ笠間での塙歯科医院とあやか内科クリニックの連携ほど密な関係を作るのは大変だと思います。直接お会いして勉強したいと思ったことも今日来た理由の一つです。医者も患者も病気を喜ぶ人はいません。ユーチューブやメルマガで医学情報を精力的に発信されている白土先生が今後ますますご活躍されるよう願って私の挨拶を終わります。
越智:講演会を始める前にpd普及の会の説明をします。歯科治療を受けているとき、あるいは治療を行っているときの姿を客観的に見る機会はあまり無いと思います。例えばこのような姿勢には問題があります。

歯科治療は大変な精密さを要求される割には条件が悪い。暗いし、舌が動きますし、唾液が溢れてきます。それでも必死に見ようとして、この先生は、腰を屈め、背中を丸め、首を伸ばし精一杯視野を確保しようとしています。しかしこの姿勢で精密作業ができるでしょうか。精密作業をする人のからだの使い方は大体、原理・原則が決まっています。つまりこの先生のやり方は間違っています。それはこの先生のせいだけではなく、大学教育・機械のメーカーの責任などが、間違いの連鎖を引き起こした結果です。無謬性の原則で世界中にこのような姿勢の歯科医が溢れています。では、能力を発揮できるようにしたら作業姿勢はどうなるのか。

まず、からだの正中で作業する。明視の距離を保ち、肘や肩にストレスがかからない。下半身は安定して、サポートするアシスタントが介助につく。こういう姿勢が望ましいのではないかと思います。これを作るための条件がpdです。

pdの“p”は日本語で言うと「固有感覚」。たとえばこういう場面を想定してください。「あなたが真っ暗闇の空間に一人だけでたっている。」もしそうだとしてもあなたの顔面が床にぶつかりそうになるような恐怖は生まれません。それはあなたのからだにある、筋肉・腱・関節の中のセンサーである固有感覚受容器からのフィードバッグがあるからです。ですからそれを活かせば無理のない姿勢で精密作業ができるようになるということになります。しかもそれは患者さんにとっても大変有益だといえます。我々は「0の概念」という考え方を使います。一例を見てみましょう。

これはHealth Oriented Indexといって(以前はStatus Intervention Index⦅SI Index⦆と呼んでいた)もしも医療の完全ゴールがあるとしたら、それはみんなの健康です。健康の定義として医療の必要性が無い状態、概念としての健康をこう定めてみましょう。それに数字の“0”を当てはめると、その対極にあるのは高度のハンディキャップということになります。我々はどちらに向かうべきか、今の介入の程度はどの位置にあるのかが見てわかる健康志向型の指標です。現場を知っている町医者や市民の方が“0”の方向を意識していただけるよう願っています。今日は“0”に近いところの、セルフケアの基本である「何を食べるか」についての話です。食べている物でその人のからだはできますし、食べているもので引き起こされる病気が非常に多いので、一番重要といえます。昨年の第1回講演会では「あなたは何を食べていますか」と題して食にまつわる大きな誤解や常識を疑うことの重要性をお話ししました。ただ、内容が余りにも多岐にわたっていて、聴いていただいた方から 「何から始めれば良いのかわからない」という意見もいただきました。今回2回目の講演会では、第一部では糖質過剰摂取から脱却してケトジェニックに取り組んでおられる方のアンケート調査結果からの考察を笠間市開業、塙歯科医院の塙由紀子先生からいただきます。第二部では昨年に引き続き笠間市開業、あやか内科クリニックの白土綾佳先生から「どう始める?ケトジェニックダイエット」と題してご講演いただきます。質問に関してはZoomのチャットや事後のアンケートの際にも受けますが、時間内に返答できないものに関してはウェブサイトでお答えしたいと考えています。それでは第一部を始めます。塙先生よろしくお願いします。

第一部「 ケトジェニックダイエット・その後」

講師:塙先生

塙:只今紹介いただきましたpdpの塙です。今日は、ケトジェニックダイエット実践者へのアンケートについての報告をいたします。昨年、私達は講演会で、「あなたは何を食べていますか?」というお話をしました。その受講者からケトジェニックダイエットに取り組まれた方が何人もおられます。その方達の中で、ある程度結果を出された実践者への方へのアンケートになりますが、結果をまとめましたので、ご報告致します。

先ず対象者についてです。昨年の講演会受講者、また当塙歯科医院で直接ケトジェニックダイエットについて説明・アドバイスし実践された方、あるいはその家族、そして本人の了解を得られた方です。対象者数は、21名、男性10名女性11名です。

方法としてGoogleフォームを利用しました。日常の臨床の会話の中からなるべくわかり易い、理解し易いようなシンプルな設問を考えてみました。今回は、実践者のご本人の意見・感想を主体に纏めてみましたのでご覧ください。

実践前の体型、ご本人が自分のことを評価・認識されているかについて質問しております。
半分以上の方が「自分は太っている」と思っていらっしゃいます。太っているということは、ある意味「自分は健康では無いな」ということをどこかで認識されているのだと思います。

これは実践前の全身疾患についての質問です。肥満・高血圧・糖尿病・脂質異常症など今の世の中にある生活習慣病というのが見事に並んでおります。その他にも狭心症・初期の肝硬変・腎臓癌での一部切除の術後・逆流性食道炎・蕁麻疹・下痢・高尿酸血症などなどです。全く何も無いという方も4名いらっしゃいました。

その他、病気では無いけれども何か気になっていること。日常的何かいつも気になっていることを尋ねました。この中には、関節痛・膝や肘、腰痛、あと肩とかですね。疲労感・睡眠不足という方はかなりの割合でいました。睡眠不足も殆どに見受けられました。あとはご覧の通りですね。

ケトジェニックダイエットを始めるに当たって「何を実践されたか?」をお尋ねしております。先ずはケトジェニックダイエットだから食事の見直しですね。糖質を減らすということはとても大切なことなのですが、先ずは自分が「現在食べ過ぎているということ」に気付いて欲しいと思います。運動を始めた方、特に特別な運動では無くて夫婦で散歩を始めたとかいう方が多かったです。中には水泳や筋トレを自主的に始めた方もいらっしゃいました。

これはケトジェニックダイエットの実践期間です。皆それぞれ期間がバラバラなので、一様に比較することは非常に難しいのですが、参考の為に見ておいてください。

次は体重の変化です。15kg以上減った方もいます。10kg程度の減量でしたら、ちょっと意識してやれば数ヶ月であまり無理なくできる様です。21人中20名の方が減量しております。ここにはプラス12kg体重が増えた方がいますが、これは特殊な例なので説明しますと子供の頃より蕁麻疹に悩まされていました。大学生になり実家を離れて一人暮らしをする様になりましたら食事がついつい簡単な方へ、パンや麺類に増えてしまった様です。ある時期から下痢と蕁麻疹、ひどい蕁麻疹に悩まされる様になり皮膚科にも通院していたのですがなかなか改善せず、その相談を家族から受けました。それで、小麦のアレルギーを疑ってケトジェニックダイエットを勧めてみましたら、1週間ほどで下痢や蕁麻疹が落ち着き、その後体調も良くなり、現在体重もほぼ戻ってきております。かなり痩せていたので、プラス12kgでもまだ痩せているという位の感覚です。ケトジェニックダイエットでちょっと気付いた、これは特殊な例ですけれどもこういうこともありました。

これは統計学の視点から見た結果ですけれども、ここは理事長から説明して頂きたいと思います。

前村:はい。単に体重の上下だけですと、人によって状況が違いますので、イコール性を高める為にBMIという指数を使っています。これは何かと言いますと、体重を身長の二乗で割って肥満や痩せの判定に使用する訳です。普通BMIというのは18.5から25未満ということですね。左の青いグラフが実践前、赤い右のグラフが実践後。BMIの高い方が下がっている。尚且つBMIの低い人が上がっている。つまり痩せの人が普通体重に戻っているというのが、このグラフからわかります。で、それが統計的にどうなのかということを検定してみました。その結果、ケトジェニックダイエット前後でBMIの平均に差があるという有意差5%で検定が証明されました。

塙:これはご自身が感じた実践後の変化についてです。体重、血圧、疲労感はかなり改善しております。運動不足と睡眠不足は変わらないと云う結果ではありますが、内容を聞いていくと寝つきが良くなったとか、極度の睡眠部奥は無くなっております。悪い何かが悪化したと云うこともありませんでした。ここも理事長の方から説明をお願いいたします。

前村:血圧の高い方、収縮期血圧についても左の青いグラフから右の赤いグラフの方へ変化があるのでは無いかという仮説に基づいて検定してみたところ、ケトジェニックダイエット前後で収縮期血圧の平均についても有意差5%で証明されました。

同じくHbA1cについても同様に検定させていただきました。ケトジェニックダイエット前後でHbA1cの平均に有意差5%で差があるということが証明されました。

塙:実践して気付いた変化について当事者の感想を簡単に纏めてみました。

体調が良くなった。
体が軽くなり、日常の動きが楽になった。
だるさや頭痛などの不定愁訴が減った。結果気分が良くなった。
快食快便。下痢や便秘が改善した。
膝などの関節痛が楽になった。結果、草取りができるようになった。
中には予定されていた膝の手術が経過観察になった方もいらっしゃいました。
咳・いびきが無くなった。
HbA1c・高血圧が改善し、主治医に褒められた。結果薬が減っております。
手足の浮腫みが取れた。
服のサイズが変わり、服の選択肢が増えた。
日常を見直す良いきっかけになった。
あまり変化が感じられなかった。これは1人だけでした。
蕁麻疹が出なくなった。

以上の評価をいただきました。

現在の皆さんの状況は、11名が継続している、10名がまあまあ継続している。継続していない方はおられませんでした。

ところで、ケトジェニックダイエットの話をすると必ず皆さんから「何をどう食べればいいの?」と云う質問を受けます。それで一つの試みとして、ランチプレート、この皿を利用してどの位のバランスで食べれば良いかというのをやってみました。
バランスとしてはPFCバランス3:3:3なのですけれども、Pはプロテイン、タンパク質。Fは脂質、油ですね。Cはカーボ、炭水化物。ここの場合脂質は少し複雑なので、後で白土先生から詳しく説明があると思うので、この場合は野菜と考えてください。タンパク質と野菜の中にかなり脂質が含まれますので、野菜は食物繊維と考えていただければ結構です。

これは一例として、ある日のランチプレートです。9品作るというのはとても大変と思う方もおられるかと思いますが、これは家にあった物をこの皿の窪みに入れてみただけです。不思議とこの皿の窪みには食材が30〜50gしか入りません。一つ一つ違う必要はありません。例えばトンカツならば、この窪みに乗るくらいの大きさに切って上手くのせれば良いのです。この時に注意することは、ご飯が2つです。一つは果物にしております。同じ糖質の中でも、ご飯と果物は吸収の経路が違うので先ほど説明しました様に、3なのですが(1)としております。これで軽くケトジェニックダイエットの1食分になります。今スマホとかで栄養、カロリーとか栄養成分を簡単に出せるアプリがありますので、それを利用してアバウトですが出してみました。大体515kcalと、これは軽くカツ丼一杯分位のカロリーになります。ちょっと少ないかなと思われるかもしれませんが、結構満足感があります。隣の栄養素の中には不足もありますが、これは1日の中の一食です。糖質と塩分など過剰なものを注意していただければ大丈夫かと思います。

皆さん、今はよくお弁当を買ったり外食をしたりすることがあると思いますが、一つの試みとして、非常にローカルですが、笠間のショッピングモール・ポレポレの中にあるお惣菜屋さんの“あずま亭”さんの協力を得て、この様なお弁当を検討しております。ほぼ完成しました。9升弁当の中のご飯を2つです。炭水化物の量を少し考えるだけでケトジェニックのお弁当になります。もしこれで不足であれば、野菜の具沢山の味噌汁やスープなどを付けて貰っても全然問題はありません。ただこの時にコーンスープとかじゃがいものポタージュなど糖質中心のスープになると糖質が増えてしまいますので、ちょっと注意してください。ほぼこのように協力していただけることになったので、もしも興味がある方がおられましたら“あずま亭”さんに「9升弁当でご飯を2つ」と注文してください。できたら前日までに注文していただけるとありがたいそうです。糖尿病の方でも、ご飯を1つと注文していただければ十分安心して食べられるお弁当になると思います。

最後になりますが、私達pd普及の会のメンバーは共通のコンセプトを持っております。その中の大きな2本柱が、歯科治療に関するモーターパフォーマンスと後は患者との対話でランゲージパフォーマンスと私達は呼んでおります。この部屋は、私達はインフォメーションエリアとかディスカッションエリアと呼んでおりますが、ここで患者さんと治療計画やケトジェニックについてのアドバイスや状況をお話します。今回は私の非常にナラティブなアンケートとその結果でしたが、この部屋が非常に役に立ってくれたと思っています。

ご清聴ありがとうございました。

第二部「どう始める?ケトジェニックダイエット」

講師:白土先生

白土:笠間市「あやか内科クリニック」の白土と申します。今日は1年前に総論でお話ししたケトジェニックダイエットの実践編です。前回の動画を見ていない方にもわかるように話していきます。

前半はケトジェニックダイエットの概要をお話し、後半は具体的な方法やスムーズに始めるために気を付ける点などを説明します。

私自身のケトジェニックダイエットの始まりは、力を入れている認知症診療で3年前に巡り合った“リコード法”でした。この方法は早期の認知症であれば社会復帰も可能である、ということで脚光を浴びているものです。考え方としてはアルツハイマー型認知症を36個の穴が開いた屋根に例えていて、この穴を埋めていくと症状が劇的に改善するというものです。穴をカテゴリーに分けると、炎症・栄養欠乏・有害毒素の曝露となり、柱となるのは栄養のアプローチです。そして食事療法の要となるのがケトジェニックダイエットというものです。この本には「アルツハイマーは診断を受ける15年から20年前に大体40歳くらいから脳内でひっそりと発生する。自覚症状がないまま進行して60歳頃に認知症の症状が現れた時には既に末期に差し掛かっている。」と書かれています。また、認知症というのは患者一人の問題ではなく家族と一緒に戦っていく病気なので、その方にも健康上のギフトを差し上げたいと思い、両者を幸せにできるのがケトジェニックダイエットだと実感しました。

ケトジェニックダイエットとは何かというとケトン体がからだの中で生まれやすくなる食事のことで、別名「パレオダイエット(原始人ダイエット)」とも呼ばれます。

内容は米・パン・麺類といった主食と呼ばれるものを中心とせずに、
肉・魚・野菜・ナッツ・甘くない果物といったものを中心とする食生活です。

私たち人間は本来ハイブリットエンジンなのです。糖質をエネルギー源とするエンジンと、脂肪を燃やして生まれるケトン体をエネルギー源とするエンジンの両方使えるようにできています。ケトンエンジンの方が糖質エンジンの100倍以上のエネルギーを持ち、持続力と馬力を持ったエンジンです。ですから、ケトンエンジンが主力のエンジンということになります。ただし、糖質がからだの中に入っていると糖質エンジンに座を譲ってしまうのです。現代人の多くが常に糖質を摂取しているので、糖質エンジンばかりを使いケトンエンジンが錆びついている、という状態になっています。このため40~50歳代になって、その後の人生も元気で過ごしたいのであればケトンエンジンをしっかり使う方向で考えると良いと思います。

昔ながらの和食はからだに良いのではないかと言われる方もいますが、歴史の長さから考えると、人類500万年の歴史の中で農耕が始まり炭水化物の摂取が増えたのが2万年、更に精製糖質と呼ばれる白い米や小麦・砂糖・コーンシロップといった物にどっぷりとはまるようになったのはせいぜい数十年から100年位のスパンです。つまり99.99パーセントが糖質を摂っていた期間ではないのです。人間のからだは数十年の食生活の変化に適応するようにはできていないので、ケトジェニックダイエットというのは決して偏っていたり不自然だったりする食事法ではないのです。人類の歴史がそれを物語っています。

よく、バランスよく食べましょうということでPFCバランスということが言われます。今では削除されていますが、3年前まで厚労省が推奨していた“バランス良く”というものと、ケトジェニックダイエットを比べると、糖質と脂質の割合が入れ替わっていることがわかります。糖質60%を推奨する根拠があるのかというと、実は全く無くて、当時はとにかく脂質が悪いものと考えられていて、脂質を20%にした結果、糖質が60%になったというだけのことなのです。今は削除されていますが、「バランス良く食べましょう」という言葉だけが残っているのです。

1980年代に旧来のPFCバランスが提唱されてから世界中で糖尿病が爆発的に増えていったのです。失われた40年と言われます。

また、ケトジェニックダイエットを徹底的に行うケトン食に関しては100年以上の歴史があり、難治性てんかんの治療に使われ脳の炎症を鎮めることがわかっています。また、胎児や新生児は血液が生理的ケトーシスであることもわかっています。決して危険なものではないので、今日の話を聴いていただいて皆さんも自分のからだをケトン体で回そうという風に考えてください。

先ほどのアンケートにもありましたが、ケトジェニックの良いところは元気で長生きできるということにあるのですが、具体的にも沢山の良いことがあります。BMIが適正になる・脳のパフォーマンスが良くなる・見た目が若くなる・長寿遺伝子が活性化する・癌の予防になる、などです。


ではこれから具体的に栄養バランスを見ていきます。
まず、糖質は控えめにする。質の良い脂質とタンパク質はしっかり摂るようにする。

もっと具体的に、ケトジェニックダイエットの中で推奨されている食材と推奨されていない食事を見てみましょう。根菜類は△ですが、多くの野菜は〇です。特にブロッコリーやアボカドは推奨されます。
果物はパイナップル・マンゴー・バナナのようなトロピカルフルーツで甘みの強いものは×で、
ブルーベリーやリンゴのような甘過ぎないものは〇。卵・肉・魚も〇。
ナッツ・オリーブオイル・ココナッツオイルも推奨されるものです。
精製糖質は×。
甘い物や主食の中でも白い米・小麦は×。

ケトジェニックでは糖質を全面的に禁止しているわけではないのですが、玄米や全粒粉のパンといっても、いくら摂っても良いというものではありません。ケトン体が上がりやすいようにするには1回の糖質を20gに制限する必要があります。セミケトジェニックでも20~40gということなので嗜好品として楽しむという程度になります。因みに白米を茶碗に1杯だとそれだけで糖質57gなので過剰ということになります。 ケトジェニックの話をすると皆さんが一番初めに超えるべきハードルが糖質との距離感だと思います。断糖すべきか少量摂取で良いのかという判断は個人の体質にもよるので断定できないのですが、 今どっぷりと糖質三昧の生活をしているのであれば見直しが必要です。

人間のからだは老化したり歳と共に望ましくない病気が増えていったりしながら死に近づいていきます。これは“メタボリックドミノ”といって初めの上流のポイントからいろいろな病気が発生していくのです。今、西洋医学で行っているのは末端の病気ひとつひとつに対して薬を出したり治療をしたりしているのですが、大事なことはドミノの一番上を押さえましょう!ということなのです。そうすれば薬は要らなくなります。一番上のポイントは何かというと、「高インスリン血症」つまりインスリンがからだの中に出過ぎている状態=肥満ということなのです。

糖質を摂ると血糖値が上がりそれを下げるためにインスリンというホルモンが出ます。どうやって血糖値を下げているのかというと、インスリンは“貯めるホルモン(肥満ホルモン)”と呼ばれていて血液中の血糖を脂肪に変えてからだの中に蓄えることによって血糖値を下げているのです。つまり糖質を摂れば摂るほどインスリンが出てからだに脂肪が蓄積されていくということになります。それによって脂肪肝になったり、インスリン抵抗性に繋がったりしていきます。

糖尿病の本質は血糖が高いことではなくて高インスリン血症なのに、治療では、血糖値を下げることが目的になっています。そのためにインスリンの分泌を促す薬を使ったりインスリンの自己注射が治療であったりするわけです。しかし、先ほど話したように“メタボリックドミノ”の上流にあるのは高インスリン血症なのですからインスリンを増やしながら糖質を摂っている人は、放置している人よりも合併症のリスクが高くなったりするわけです。何を食べるかで、問題の解決を考えることが重要で、実はインスリンは老化促進の毒であるということを理解してください。目指すのはインスリンが要らないからだです。インスリンを増やすことは癌のリスクも高めます。つまりケトジェニックダイエットは癌予防の食事でもあるわけです。

糖質をできるだけ制限しましょうという話をすると、実践する前に「食べないとお腹が空きます」とか「空腹は耐えられない」とか言われます。皆さんも食べないからお腹が空くと思っているでしょうが実は血糖値というのは、 “ジェットコースター血糖”などとも呼ばれていて、食べた後に上がった血糖値はインスリンによって急降下します。その時に異常な空腹感を感じるのです。つまり、インスリンが出るから空腹感が生まれるのであって、糖質を摂らなければ空腹感はあまり感じません。糖質エンジンというのは備蓄のエネルギーが400キロカロリーしかないので半日食べないとお腹が空き、糖質を摂っていると当然そうなるのですが、ケトジェニックの場合は酷い空腹感は生じないということを覚えておいてください。

糖質にもいろいろ種類があってその中でも一番初めに止めるべきは小麦関係の糖質です。具体的には、パン・麺類や“粉もの”と呼ばれるものです。パンのモチモチ成分であるグルテンは腸と脳に炎症を起こすことがわかっています。また“小麦腹”と言われるように米以上に血糖値を急上昇させるので太りやすくなります。脳の炎症は精神科や心療内科の神経系の病気の発症原因になりますし、認知症も含め悪化要因にもなります。頭痛持ちの特に若い女性は、1~2週間グルテンフリーの食事によってかなり改善することが多いです。

腸については、“リーキーガット症候群(駄々洩れ腸症候群)”といって腸にミクロの穴が空き、 からだの中にアレルギーを起こす成分が入り込み炎症を起こすことがあります。過敏性腸症候群・逆流性食道炎・潰瘍性大腸炎・クローン病・アレルギーなども小麦が原因で発症したり、悪化したりすることになるというわけです。これらの根本治療は薬ではなくグルテンフリーの食事ということになります。

糖質制限に関しては、やるなら徹底的にということで初めから極端な断糖を始めると“ケトフルー”といった状態になることがあります。錆びついたケトンエンジンがうまく回りだすのに2~3週間必要ですが糖質も入らないということになるとエネルギー不足から「頭が痛い」とか「気持ちが悪い」とか「ひどい脱力感」などが出ることがあります。特に筋肉量が少ない女性の場合“糖新生”(からだから糖を作り出すこと)が苦手なので、緩やかに始める方が失敗しにくいと思います。糖質制限をすると便秘になるなどの批判もありますが、当然食物繊維はしっかり摂る必要があります。低糖質の食品も多くありますが添加物には気を付けましょう。あとは、体質や遺伝もあるのでどの程度の糖質制限が良いのかは試しながら探していくと良いと思います。

次は脂質についてです。脂質に関しては従来の常識を本人がリセットできるかどうかが、今後の人生の質を左右します。

世界的に権威のある雑誌である「TIME」の表紙です。1980年代「卵とバターを控えよ」というコレステロールの特集が組まれていたのですが、8年前には「バターを食べろ」という特集が組まれていて時代の移り変わりを感じます。“パラダイムシフト”といって“革命的な変化”つまり、ガラッと常識が変わったところです。背景として、脳出血・脳梗塞・心筋梗塞などを引き起こす動脈硬化の犯人が従来はコレステロールだと考えられていたのですが、実は今では犯人は糖質であると常識は変わっています。この8年でそのことが医療者の中に広く行き渡っているのかというと残念ながら行き渡っていないというのが実情です。

食事からの脂質制限をしても脳や心臓の血管イベントを減らすことはできないし、肥満予防の効果も無いことが2015年にわかり米国では上限を設定していません。また、コレステロールの上昇を抑える“スタチン”という薬を使うことで認知症の発症確率が4割上がると言われています。脳にとってコレステロールはとても重要な栄養素なので、合成を押さえる薬を飲むことで鬱を誘発するということもわかっています。

脂質は摂るべきだといっても、良い脂質でなければいけません。減らすべき脂質の代表が“トランス脂肪酸”であるマーガリンやショートニング。それから“オメガ6”であるサラダ油などのリノール酸(キャノーラ油・ベニバナ油・コーン油・ヒマワリ油・大豆油)。これらの油は血管の炎症を惹起することで動脈硬化を引き起こしたり、癌や認知症を誘発したりすると言われているので基本的には避けた方が良いです。食事の質を高める段階では加工食品を買うよりも自分で料理した方が良いと考えられるのですが、それは多くの加工食品に、価格を抑えるためにこういった摂るべきではない脂質が含まれているからです。逆に摂った方が良い油というのはオリーブ油・アマニ油・えごま油です。加熱できないということからドレッシングなどに使うのですが、あとは魚に含まれるEPA・DHAです。

それから“中鎖脂肪酸”であるMCTオイルやココナッツオイル。バターや生クリームも摂るべき油になります。油を摂ることに抵抗がある人も自分のからだで実感しながら試すと良いと思います。私の朝食はココナッツミルクコーヒーとナッツです。MCTオイルはコーヒーに直接入れて飲む人もいますが、カプセルに入って飲みやすいタイプもあります。ココナッツミルク・ココナッツオイル・MCTオイルなどの“中鎖脂肪酸”は速やかに脂質の代謝モードのスイッチを入れてくれる油なのでケトン体が生まれやすいということと、からだの中で安定したエネルギーを供給しているので食欲のコントロールにも最適です。

実はアルツハイマーの方は脳の中でインスリン抵抗性があり“3型糖尿病”などと呼ばれています。糖をエネルギー源として脳がうまく使えない結果、神経細胞がダメージを受けて認知症を発症してしまうといわれているので、それならばケトン体は使えるのかというと、これが良いのです。アルツハイマーの方の生活の中にMCTオイルやココナッツオイルを取り入れていただくと劇的に改善効果が表れる人もいます。副作用も無くそれ程コストもかけずに実践できる方法なので“物忘れ外来”でも紹介しています。また、家族の方が認知症予防のために取り入れても良いので、全員で良い脂質を積極的に摂ってみることをお勧めします。

次はタンパク質です。タンパク質をしっかり摂ることは健康の土台だと思ってください。タンパクは英語でproteinと言いますが、プロテインというのは元々古代ギリシャ語で「第1となるもの」「最も重要なもの」という意味です。私たちのからだは全部タンパク質でできていますので外から新鮮なタンパクが入ってくるということは新鮮な材料でからだを作ることができるということを意味します。逆に低タンパクの状態の場合、自分のからだのタンパクを一度アミノ酸に分解して再利用することになるのですが、要は全てのからだの臓器が中古の材料でできているということになります。どちらの質が良いかというと新品の材料で作られた物の方が間違いなく良いです。

質を高めるということでいえば、“メガビタミン療法”というのがあるのですが、よく誤解されています。多くの皆さんは一粒の薬で良くなるのが好きなので、どんなサプリメントが良いのか、どんなビタミンが良いのか、どんな薬が良いのかを気にします。しかし、ピラミッドでいえば、高タンパク・高脂質・低糖質という土台がしっかりあって、その上に乗せるものがサプリやビタミンということになるわけです。従って、高タンパクの土台が不十分なところにサプリやビタミンを加えても効果は無いのです。外来の現場でも、どの薬を出しても文句を言う方がおられます。そういうケースの場合、原因が低タンパクであることが圧倒的に多いです。薬が体内に入ると化学反応が起こるのですが、それを引き起こす酵素や消化管の粘膜もタンパクでできています。したがって低タンパクの人というのはどんな栄養を摂るにしても吸収がうまくできなかったり、薬の副作用が出やすくなったりします。余計な薬を飲まないためにも、薬がしっかり効くためにも高タンパクを意識してください。

具体的にどれだけのタンパクを摂れば良いのかというと体重1㎏あたり1gが最低限の量です。理想的には1.2gとか1.5gの量を摂るようにしましょう。例えば体重50㎏の人が50gのたんぱくを摂らないといけない場合、50gの肉を食べれば摂れるわけではないのです。肉や魚は100g食べてタンパクが20gというように約五分の一になります。卵1個が6g、この2点を覚えておいてください。つまり50㎏の人が肉・魚でタンパクを摂ろうとしたら、毎日250gの量を食べないといけないということです。これは実は結構高いハードルです。日本人の感覚としては余程しっかり摂ろうとしないと、タンパク不足になるということです。日本人の7割がタンパク不足ということですので、バランス良く食べているということは、低タンパクになっている可能性が高いということになります。高齢の方は動かないから低タンパクでも良いのではと言う方がいますが、逆に高齢者は体重1㎏あたり1.2gのタンパクが必要なので、ご飯や麺を控えてしっかりタンパクを摂るようにしましょう。糖質制限というよりも、まず必要な肉・魚を摂るという風に考えると自然に糖質が減ってくると考えられます。どんな肉が良いのかを悩む必要は無く、色々組み合わせてしっかり量を摂ることが重要です。遅延型アレルギーを避けるために“ローテーション食”といってその時々で、牛・豚・鶏・卵と分けることも悪くないです。

また肉の摂り過ぎは良くないのでは、という質問も多いです。アメリカ人は日本人の約三倍肉を食べるといわれていますので、確かに摂り過ぎは良くないとも書かれていますが、やはり基準は1㎏あたり1gです。食文化の違いがありますが、日本人はしっかり摂るというくらいでちょうど良いと思います。正確にやりたい方は自分の食べる肉の量を測ってみて把握するのも良いと思います。

敢えて言えば、肉をたくさん食べるとホモシテインという成分が生まれて、多くなり過ぎると認知症にとって良くないということがあるのですが、ビタミンB6やB12をしっかり摂れば、“メチオニン”や“システイン”のような有害ではない成分に代謝されます。メガビタミンのB50という複合サプリを摂るのも悪くないと思います。肉をたくさん食べるとお腹が張ったり、下痢をしたりするという方もおられます。実は低タンパクの人は肉を余り食べられないという負のループがあります。先ほども言ったように、タンパク質は、消化管の粘膜を作ったり、消化吸収する酵素の材料だったりするので、低タンパクの人はタンパク質をうまく吸収することができないことがあります。これに関しては、最終ゴールを半年とか1年とかに設定して、緩やかに近付けていくことが大事です。1か月で10gずつでも良いので少しずつ増やしていくと段々に胃腸が丈夫になり食べられるからだになっていきます。

そこまで待てないという人には、アスリートが飲んでいるようなプロテインを味方に付けるのも良いと思います。カーブスなどのジムでも勧められるようですが、アスリートでなくても、高齢者や育ち盛りの子供が上手に活用すれば、たんぱく質を摂ることができます。

最後はプチ断食の勧めです。これは一般的な修行のような断食ではなく、1日の中でしっかりと糖質を摂らない時間を作ることが目的です。これまでのように、「バランス良く」ということばに囚われていると、三食に摂る糖質を少しずつ減らす人がいるのですが、実はケトン体を生み出すためにはメリハリのある食べ方の方が効果的です。

寝ている間は食べませんから、朝もコーヒーとナッツのように糖質を摂らないと16時間ほど絶食の状態になります。糖質エンジンは400キロカロリーしか備蓄が無いので、半日も食べないでいると脂肪が燃やされケトン体が生まれやすくなります。8時間は好きなものを食べられるようなダイエットもありますが、これは裏を返せば16時間は食べないでいましょう、ということです。ケトン体を生みやすくするためであったり、デトックスの効果であったり、長寿遺伝子とも言われる“サーチュイン遺伝子”が活性化するために必要だったりするのです。ですから、朝ご飯を食べないと力が出ないとか、頭が回らないとか、元気が出ないとかいうのは糖質エンジンで動いている人のみです。ケトンエンジンをしっかり回せる人にとっては、朝食を摂らないということは悪いことではない、ということを覚えておきましょう。ケトン体がより多く生み出されるように、MCTオイルを入れたコーヒーやココナッツミルクを入れたコーヒーやミックスナッツ・アボカドのような良質の脂質を摂るのも良いことです。脂肪を燃やしやすくなるからです。

では、これまでしっかり糖質を摂っていた人がケトジェニックを始めるためにはどういった方法が良いでしょうか。

2ステップでやっていくことをお勧めします。 初めの一番のハードルは糖質依存からの脱却です。それが克服できれば、あとは各自で楽しく進めていくことができます。ここが約7割と考えられますので、これができれば私の役目も終わりと言って良いと思います。糖質依存から抜け出すように勧めると、皆さん「食べるものが無い」とか「何を楽しみに生きていけば良いのでしょう」とか言われることが多いです。頭の中でのイメージと実際にやることは違うので、まずやってみるようにお勧めします。そして、糖質依存から脱却できて、タンパク・脂質をしっかり摂り、糖質を嗜好品とみなせるようになれば、次のステップとして栄養の質を高めていくことになります。例えば、加工食品のテイクアウトや外食ではなく、自分で材料を吟味して手作りに変えていく、といったことです。そうすると、腸内細菌の質を高めるために食物繊維をしっかり摂るようにするとか、運動や睡眠にも興味がでてくるはずです。

実際に私が何を食べているのかを紹介します。朝はカフェオレから抜け出せなかったのを、今はココナッツミルク入りコーヒーに変えました。あとはミックスナッツですがこれが定番です。どうしても空腹を感じるときはチーズやゆで卵を加えます。ミックスナッツは低糖質・高脂質で食物繊維が豊富なのでケトジェニックにとって好ましい食材で、炎症を鎮めて動脈硬化を改善する効果もあります。空腹時の間食にも最適です。あとは1日を通してしっかり水分補給をしましょう。最低でも1ℓ、できれば1.5ℓを心がけています。飲み物は水か無糖の炭酸水です。

お昼は職場で食べることが多いのですが、私が糖質制限を始めたころは、自分が食べられなくなるという状況が怖くて量はたくさん食べても良いので、タンパク質と脂質をたっぷり摂ろうと考えました。それまでは、ご飯半分・おかず半分のところを全部おかずにして、それでもお腹が空いたらどうしようと思って具沢山の味噌汁やスープをセットにしてお昼の食事にしていました。それをずっと続けていく内に,それ程食べなくてもいいかな、というようになって、スープは要らないとかおかずの半分を夕食に回そうかなと思うようになりました。最初は、皆さんも主食が無いことにすごく抵抗して、お腹が空くのが怖いとか心配されます。先ず初め、質は問わないので、タンパク質と脂質をしっかり摂ることです。そうすると余りお腹が空くことは無いということがわかります。余りお腹が空いてないときはリンゴとチーズだけということもあります。時間通りというよりも、お腹が空いたら食べるという状況に最近は変わってきています。

次は夕食です。夕食に関しては、家族と一緒に食べることがあるので、カレーライスを食べることもあります。初めは主食が半分くらいだったのですが、最近は主食無しの方が食後のもたれが無く調子が良いので、無理なく主食無しでもやっていけるようになりました。タイカレーは実は優れたケトジェニック食です。日本のカレールーはかなりの量の小麦粉が含まれているのですが、 タイカレーはスパイスとココナッツミルクなのでご飯を使わず具沢山のスープとして飲めば良いと思います。

コンビニなどのテイクアウトの場合はご飯とのセットではなく、お惣菜だけでも売られていますので余り面倒に考えなくても何とかなります。

ジャガイモがメインのお惣菜とかでなければ、満足できるおかずを組み合わせて買うとか具沢山のスープを買うとかして、空腹を埋めていくことを考えてください。ファストフード店でも牛丼でご飯の代わりに豆腐を使ったメニューなども積極的に出しています。自分で色々試してみて、これならば続けられると思ったら楽しみながらやってみれば良いのです。そんな追い風も感じます。

家族で週末に外食をしようとするときにも、メニューを選べばそこそこいけるところもあります。蕎麦屋やラーメン屋では無理でしょうが、ファミリーレストランや洋食屋では楽にできる所もあります。

爆弾ハンバーグは肉が250gなので、これだけで1日分のタンパク質を摂ることが可能です。アボカドは食べて、コーンとジャガイモは残して、根菜類は食べたり残したりします。和食の定食屋でも単品で頼み、ご飯は除いて豆腐と納豆の小鉢などを選べば何とかなります。ご飯を食べないだけでなく、おかずをもう一品増やすというような工夫をすればお腹は満たされます。締めのラーメンとかおにぎりを食べなければ、居酒屋はケトジェニックをやり易いと思います。

あとは間食ですが朝食と同じように、ナッツ・チーズ・果物などを選びましょう。

ケトジェニックの考え方として“一物全体”と言って野菜や果物や小魚をできるだけ全部食べましょうというものがあります。野菜や果物は皮に抗酸化作用の成分が含まれているので楽しみながら試してみると良いでしょう。

糖質制限の大家である江部先生が監修している“糖質制限ドットコム”です。糖質制限の美味しい物があるお店です。低糖質のチョコレートやロールケーキなどもありますが、値段が高いのでご自分で落としどころを探してみてください。

次は“チートデイ”という考え方についてです。ケトジェニックは毎日連続してやるよりも、時々糖質を含めた通常食を摂っている人の方が代謝効率が良くなるという面があります。ダイエットが軌道に乗っている方で倦怠期に入ったような人は週に1回とか2週に1回通常の食事を挟むことでからだを混乱させて代謝に揺さぶりをかけるわけです。これは“ファスト・メタボリックダイエット”と呼ばれる考え方です。

ですから、たまの会食などではケトジェニックを貫くよりも普通食にするということは、ケトジェニック的にも悪くはないのです。ただし、2日に1回“チートデイ”にならないようにしましょう。ストイックに糖質制限をする期間とたまのお楽しみで糖質を摂る日のメリハリもあって良いので人生の絶望では決してないのだと考えてください。

ここまでケトジェニックのスタートについて話してきました。それがうまくいっているのかの評価に関してお話しします。本人が満足できるのであれば、自分の体重・鏡に映る自分の姿・顔色・体調といったところでも十分です。早い人だと、特に男性の場合は数カ月で体重を落とせることもあります。成績で判断したいという場合はデーターを見るというのも一つの方法です。

生理的にからだの中でケトン体が生まれている状態を生理的ケトーシスといいます。糖尿病の方の場合、医学的にケトン値を測るためには血糖値を測るセンサーを八千円位で買えばケトン体も測れます。境界型も含め血糖値が高めの人は初期の段階でこれを使ってほしいと思います。使い捨ての持続血糖測定センサーを腕に付けてケトン値や類似血糖値を2週間24時間見ることが可能です。リーダーは八千円位ですので両方で1万6千円位かかりますが、2週間測り続けて自分で試してみるというのは、食生活維持のモチベーションのためには大変価値が高いと思います。蕎麦を食べた後と肉を食べた後の血糖値の違いを自分の目で確認できるので是非お試しください。

16時間絶食をした後にケトン体が生まれているのかを調べる方法として、簡単なものでは“ケトメーター”といって呼気の中のアセトンの数値を測るものがあります。大体五千円位です。数字が二けたであれば、ほぼ生理的ケトーシスの状態であるといえます。モチベーションの維持のためにはお手軽な方法です。

私自身のデーターですが、クリニックを開院して食べたいものを自由に食べていた時と比べてケトジェニックを始めて半年くらいで体重は7㎏くらい減少しています。

次に変わったこととして、花粉症がほぼ解消した、睡眠の質・便通が良くなった、肌トラブルの解消、メンタルの安定、集中力のアップ、などがあります。このように調子が良くなると、そこから以前の状態に戻ることはないのでは、と感じます。甘いものを食べる「快」よりもからだの調子の良い「快」の方が勝ると、自分でどういうことをするのが自分に良いのかがわかるので楽しくなるのです。

これまでの話を聞いて、これから始めてみたいという人にアドバイスをするとしたら、色々確認のために質問をするよりも、とりあえず始めてみることです。いろいろやめられないという人は100点を目指すのではなく、まず60点を目指すくらいでスタートして少しずつ近づけるのが良いと思います。始めるのに遅過ぎるということはないし、ケトン体の良い数字を出すことが人生の目的というわけではないのです。更なる健康を手に入れることができたら何をしたいのか、そんな目的と向き合いながら生活できるのがケトジェニック食と位置付けてください。本人がやりたいと思わなければ絶対に続きません。また他人からの指示で強制的にやっても合ってなければ元に戻ってしまいます。自分のマニュアルは自分で作ってみましょう。嫌いなものを無理に食べる必要はないので、食べられるものの中で工夫して健康に良いものを作っていきましょう。承認欲求と言われても構わないので自分の結果をどこかへアウトプットすることにより他人に認めてもらうとか、チームで互いに励ましあえる状況を作ってやっていくのも頑張りやすくなる方法です。細かな情報をシェアしたりすることも効果的なので上手に仲間を作ってやっていくというのも良いと思います。最後に医療機関との付き合い方についてです。主治医の全面協力がないと駄目だとは思わないでいただきたい。コンビニなどでも糖質制限食がかなり普及して社会的にも認知されてきてはいるのですが、実は専門家と呼ばれている人たちが糖質制限に対して一番の抵抗勢力です。糖質制限が提唱されて20年、脂質の常識が変わったのが8年前です。保守的な医療界の認識が変わるのに十分な期間とはいえません。主治医がどうであれ、生活習慣病というのは自分で工夫して自分で守るものなので、自主的にやりましょう。医療機関は血液検査や急性期の薬を期待する程度にとどめた方が無難です。今後ケトジェニックは更に市民権を得ていく流れになっていくと思います。これからやってみたいとか、やってみて困ったなどがありましたら、是非お声掛けください。

ご清聴ありがとうございました。

Q&A・エンディング

Q1どうしてもナッツを食べ過ぎてしまいます。食べ過ぎは良くないですよね。
A1 「食べ過ぎてしまいます」というのがどの位召し上がっているのかによると思います。もしもナッツに代わる好きな間食があれば試してみてもいいと思います。結論から言えば、食べ過ぎることによってご自身の体重とか体調とかに問題がないのであれば、総合的に判断するということで良いと思います。

Q2 ミックスナッツは体重によって量を変えるのですか。
A2 薬と違ってあくまで食品なので体重によって量を変える必要は無いと思います。よく言われるのは毎日手のひら大を食べると動脈硬化予防に有効であるということです。また、ナッツといってもジャイアントコーンのような糖質が多めのナッツはあまり良くないです。ミックスナッツを買うと成分表に「糖質何グラム」と表示されているのでケトジェニックをやるのであれば1食当たり20g、セミケトジェニックであれば20gから40gですので、それをオーバーしてないのか確認してください。

Q3 ナッツを食べ過ぎると肝臓が悪くなると聞いたのですが。
A3 実際にナッツを食べて肝機能が良くないのかどうかの問題です。ナッツを食べていて肝機能に問題が無い人も多くいますので、他の要因を調べる必要があります。私はそのような話を聞いたことはあまりありません。

Q4 朝・昼の食事は主食を抜いて夜はご飯(お米)を食べているのですが、できれば夜も主食を抜いた方がいいでしょうか。
A4 抵抗感が無いのであれば、両方試してみて体感・症状がいい方をやってみたらいいと思います。先ほども言ったように断糖した方がいいのか少し糖質を摂った方がいいのかは遺伝的な体質によっても異なります。米といっても白米なのか玄米なのか、量はどのくらいなのか、他の食事とのバランスがどうなのかなどにもよります。本人が絶対無理ならば夜は今まで通り主食を摂るというのも良いですし、例えば1週間、夜も主食無しで試してみて無理なく続けられるのかで判断すると良いですね。このあたりのことは成書があるわけではないので自分のからだで試してみるのが一番良いと思います。

Q5 ケトン測定器はどこで購入できますか。
A5 amazonで買えます。ケトメータやリーダー・センサーはamazonで買えるのですが、ケトン値を測る電極だけは調剤薬局でしか買えません。糖尿病の方でなくても普通に購入できるようです。

Q6 16時間プチ断食をしていますが、便秘気味です。MCTオイルはまだ試していませんがやってみたいと思っています。
A6 MCTオイルは初めからしっかり摂ろうとすると便が緩くなるというのが注意点なので、使ってみて良いと思います。

Q7 オリーブオイルはどう使えば良いでしょうか。
A7 私の場合日常生活ではあまりないのですが、揚げ物をするときとか炒め物などはベースで使っています。ココナッツオイルは気温が低いと白く固まるので日常では使い勝手が悪いかなと感じます。アマニ油やえごま油は加熱ができないので、火を通す時はオリーブオイルを使っています。

Q8 オリーブオイルは値段にすごくバラツキがあるのですが、高い物の方が良いのでしょうか。
A8 エキストラバージンオリーブオイルの方が良いと言われていますので私はそれにしています。

Q9 プレドニンを少量使っています。ヘモグロビンA1cは6を超えていて、血糖値管理の入口の段階です。糖質制限・ケトン食について注意点があれば教えてください。
A9 プレドニンの副作用で血糖値上昇というのがあるので、もしかしたら関係しているかもしれません。血糖値を下げる薬を飲んでいる方の場合は糖質制限で低血糖のリスクがあるので主治医と相談する必要があります。もしも血糖値を下げる薬を飲んでないのであれば、特別な注意は無いと思いますので、しっかり始めてください。

越智:それではこれをもちまして本日の講演会を終了します。
長い時間、ご清聴ありがとうございました。