pdp講演会「あなたは何を食べていますか?」

第一部「 MCとMPSのための食事指導」
講師:越智 豊 先生 埼玉県上尾市開業pdp専務理事

第二部「食の常識を疑え!」
講師:白土綾佳 先生あやか内科クリニック院長

日時:2021年12月19日(日)13:00~15:00
場所:茨城県笠間市あやか内科クリニック+Zoom

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レポーター:三島先生
今日の講師をお願いしている「あやか内科クリニック」にお邪魔しました。中に入ってみましょう。中はこのような感じで皆さん準備しています。では司会の塙先生、よろしくお願いします。
司会:塙先生
本日は年末のお忙しい中、pdp主催の講演会にご参加いただき、ありがとうございます。まず理事長の三原先生よりご挨拶をお願いします。
開会の辞:三原先生
理事長の三原です。本日は、pdp主催・市民向け講演会にご参加くださりありがとうございます。我々pdpは歯科医療において、ムリムダムジュンのない医療を求めて、人間の持つ固有感覚をベースにした医療の普及を目指して活動を続けております。ただ、基本理念である固有感覚やら、0コンセプトやら、簡単にはご理解いただけないこともあり、数年前から一般の市民の方々にも参加いただける講演会を企画してまいりました。
今日の企画は、講演会運営委員会の塙先生に企画立案いただいて実現したものです。コロナ禍の中、様々な困難を乗り越えてようやく、Zoom講演会の形で皆さんにお届けできる事を嬉しく思うとともに、実現に向けて奔走いただいた多くの理事に感謝いたします。今日の話は、僕個人としても身を乗り出す勢いで拝聴したいと思っています。越智先生と白土先生のコラボ話を聞くだけで、自慢もできない右肩上がりを続けた体重がこの日を境に変わるらしいのですから。では、司会の塙先生宜しくお願いします。
司会:塙先生
では講演会第1部越智先生の講演から始めます。よろしくお願いします。

第一部:「 MCとMPSのための食事指導」

講師:越智先生
皆さん今日は。最初に出てきた僕はpdpの越智と言います。僕のテーマは「MCとMPSのための食事指導」初めて耳にした方もおられると思いますので、説明しますと、MCと言うのはマウス・クリニシャン=歯科医師のこと、MPSと言うのはマウス・プリベンション・スペシャリスト=歯科衛生士のことで、何故そう呼んでいるのかと言うと、僕達の仕事の範囲が歯にとどまらず、子供たちの顎の成長発育をみたり、高齢者の摂食嚥下をみたりしているからです。
先ほど理事長からの挨拶にもありました「0コンセプト」について説明します。簡単にいうと医療は大変面倒くさい。そして自然に任せていると、どんどん無秩序化する可能性がある。それに抗う為に0という数字を利用するという考えです。0という数字は、「全てを包括する」という意味を持っていたり、逆に「何も存在しない」という意味を持っていたりします。一般に「スタート地点」とか「基準点」とか言った使い方をします。この魅力的な数字「0」を医学の中で正しく定義付け、その他の数字1から9を秩序立てて配置して使えば、正確な分析ができたり、方向性が明確になったりする、と言った概念だと思ってください。次にこの指標を見てください。

これは我々の会員であれば皆知っているHealth Oriented Index (HO Index)と言うものです。以前はStatus Intervention Index(SI Index)と呼んでいました。40年前はStatus(病態)とIntervention(我々の介在、介入)がきれいにリンクしていたからそう言う名称だったのですが、医療形態が高度化、複雑化し、必ずしも一つにリンクすることが無くなってきたために、今ではHO Indexと呼ぶようになりました。ここでもスタートは「0」です。健康志向型の指標の「0」を我々は「健康」と位置付けることにしました。それも究極の健康です。どういう定義かと言うと「医療の必要性が全く存在しない状態」つまり誰もが医療が無くても全く困らない状態を想定しました。これは概念ですから、現実的な目標にはなり得ないとか、それを目標にするのであれば我々は我々の存在意義の消滅を目指すことになり矛盾する、といった批判があることも事実です。ただし、僕が最近読んだ本の一節にこんなことが書かれていました。「ある概念の持つ指南力はそれが現実化する蓋然性とは関係がない」 つまり、見果てぬ夢でも良い夢ならそっちの方向を目指すことは間違いではないということでしょう。
さて、「0」の対極の状態はどういうことになるでしょうか。それは、医療に完全に依存しなければ生存も困難な高度のハンディキャップと言うことになると思います。この状態を数字の-1と決めます。そうすると次のようなことがわかります。我々が医療と呼んでいる行為はそれが如何に高度の技術を要し、如何に患者に感謝されようとも、表記すると全てマイナスの数字になるということです。つまりプラスが存在しない。ここが重要です。
では「0」に近い医療行為はどのようなものがあるでしょうか。検診が一番近いと思います。結果に何も問題がなければそれはほぼ「0」と言っても良いからですね。これは数字では-.0と表します。次の-.1はセルフケア―に対する指導や実習です。歯科の診療所では主にMPSが担っていますし、地域では食生活改善推進員の方や保健師の方が活動されていると思います。今日はその中の食事に関するお話です。
さて病態が段々進行し機能不全や喪失の程度が進むにつれて、医療が複雑化し、それに伴いリスクやコストも増大し、次第にハンディキャップの状態に近づいていくことが分かります。

ですから医療を受ける側も提供する側も方向として「0」を目指すことになると思います。これも「0コンセプト」のひとつです。しかしいくら「0」に近いところで活動をしていると言っても、効果が無ければ意味が無いわけで、例えば甘いものを欲しがる子供が毎日お菓子を食べていたところを、2日に1回に食べる回数を減らすという目標を設定し、それが達成できたとしましょう。けれども今年の歯科検診でまた去年と同じ程度の虫歯ができていたとしたらどうでしょう。ちょっと残念ですよね。
最初の、お菓子を減らすという目標を「代用のアウトカム」と言い、虫歯を作らないという最終的な目標を「真のアウトカム」と言います。ちょっと難しい言葉ですが覚えておいてください。では実際のデーターはどうなっているでしょう。厚生労働省が出す歯科疾患実態調査からの抜粋です。子供の虫歯はどうでしょう。

昭和62年から平成23年の24年間で虫歯を持つ子供(5歳児から12歳児)の割合が半数に減ったことがわかります。大人の場合はどうでしょう。

50歳代までは良いのですが、65歳以上になると、逆に増えているようです。次に歯周病はどうでしょう。

2005年から2016年までのデーターですが、各年齢で歯周ポケット4mm以上のある人の割合が少し増えているようです。衛生士に確認すると「そうなのです。ブラッシングに問題がある人に指導しようとしても、毎回同じことだからもういいよ、と言って話を聞いてもらえないのです」といった嘆きも聞かれます。ではこんな裏技はどうでしょう。生命保険会社はある意味では医学会よりもビッグデーターの処理が進んでいます。AIを駆使して新商品の開発をしています。

これは今月から発売になった新商品なのですが、アルツハイマー型認知症と歯周病の関連に着目して、歯周病管理がうまくいっている人は認知症になりにくいということから、70歳で20本の歯が残っている人の認知症保険料を最大3割値引きするというものです。こういった経済的なことからインセンティブを引き出すという方法もありそうです。さて、アルツハイマー型認知症と歯周病の相関についてちょっと触れましたが、それ以前からもっと関連が明らかになっていることがあります。それは、歯周病と糖尿病の双方向の関係性です。

つまりいくら衛生管理をやっても、糖尿病のコントロールがうまくいっていないと歯周病の改善が難しい。逆に歯周病を放置していたのでは糖尿病の管理が困難である、と言ったことがわかっています。ですから歯周病の治療を担当する人はこれまで以上に糖尿病の勉強をしないといけないと言うことになります。ただし、これは僕の個人的な考えですが、糖尿病専門医のセミナーを受けることは余り意味が無いと思います。確かに彼らは高血糖と血糖値スパイクの問題、それに対する最新の薬物療法については詳しく教えてくれます。だけど血糖値をどの位に維持するかというのは大事だけれどもそれは代用のアウトカムであって、本当に重要なのは合併症と言われる、網膜症や腎症や神経障害の発症を抑制できるのか、あるいは重症化を防げるのかといったことだと思うのだけれど、こういったことはあまり教えてくれません。ましてや、インスリンの害やインスリン抵抗性の問題には答えようともしません。それではあまり意味が無いので、お金を出してセミナーを受けるよりも後に控えておられる白土先生の今日の話の方が余程ためになりますので期待してください。もう少し僕の話を聞いてください。では糖尿病はどうすれば防げるのでしょうか。そこでクイズです。

この人は誰でしょう。1755年生まれのフランス人、法律家で政治家、そして何よりもグルマン、美食家で有名です。本を出しています。日本語のタイトルは「美味礼賛」岩波文庫から出ています。ブリアサバラン先生です。この本には有名な箴言がたくさんあって一番有名なのが「何を食べているか言ってみたまえ。君が何者か言い当ててみせよう」というものでしょう。よくテレビのグルメ番組でも使われるフレーズのようです。この本には肥満の章や肥満の治療に関する章もあり、そこには「小麦粉・穀物・砂糖が肥満の原因である」と書かれています。1825年出版ですから今から約200年前です。今でもわかっていない人が多い中で、すごいと思いませんか。このことからブリアサバラン先生のことを「糖質制限の父」と呼ぶ人もいます。では僕たちは何を食べれば良いのか?

ここに本を並べてみましたが、キーワードはケトン体、ケトン食です。「ブドウ糖神話の崩壊とケトン体の奇跡」と書いています。ブドウ糖神話と言うのは、脳は大変重要な臓器で異物を入れないための血液脳関門というバリアーがあるので脳のエネルギー源はブドウ糖だけなのだ、と言うものです。そのために朝のパンやご飯を食べないと脳のエネルギー不足から子供たちが午前中の授業についていけなくなると今も信じている人がいます。本当はブドウ糖よりも、もっと効果的にエネルギーを生み出すケトン体という脂肪酸の代謝産物があることがわかっています。
僕が興味を持ったのは、夏井睦先生の書いた名著「炭水化物が人類を滅ぼす」のオマージュとして宗田哲男先生が6年前に出した「ケトン体が人類を救う」という本を読んでからです。産婦人科のこの先生の研究により、胎児や新生児は赤血球以外、ブドウ糖ではなくケトン体をエネルギー源にしているということがわかりました。更に考察して、今のような糖質まみれの生活をする以前の人類はケトン体エンジンが基本であったのではないかと言うのです。ただ、常時糖質が体内に入るような食生活をしている限りランドルサイクルによって解糖系だけが働くことになりケトジェニックにはなれません。どうしても、何らかの糖質制限が必要なわけです。これが人によってはとてもハードルが高く感じられるようです。ご飯が無い生活なんて想像できない、スイーツがなければ生きていく甲斐が無いとまで言う人もいます。でも本当はただの習慣かもしれません。主食という言葉も誰かが言っているだけです。どこから始めれば良いでしょうか。

こちらの左側の先生は北里研究所病院糖尿病センター長の山田悟先生です。この先生が中心になって普及させているのが、緩やかな糖質制限とも言える「ロカボ」です。具体的には1食当たりの糖質を20~40グラム、デザートが10グラムまで。つまり1日当たりの糖質を70グラム~130グラム摂りましょうという提案です。かなり多くの企業がパートナーとなり、どこでも目にするようになりました。私も試してみました。某ファストフードのハンバーグ・ビーフシチュー定食の「ロカボチェンジ」ボタンを押すと、白米が野菜サラダに代わるというものです。この他のお店では豆腐を使った丼物やこんにゃく麺などもあります。
以前は糖質制限で困るのは外食のランチだったのですが、最近は選びやすくなりました。先ほど紹介したブリアサバラン先生も「いくら良い方法でも厳し過ぎて誰も受け入れないものでは意味が無い。やってみようかと思わせて、やってみたら意外といいね、というものを工夫しないと駄目だ」と書いています。これからは、ロカボから始めるでも良いし、とにかくケトジェニックを是非体感して何が良いのか自分自身で確認していただければと思います。僕の時間はここまでです。
最後に19世紀の哲学者ジョン・スチュアート・ミルの言葉で締めたいと思います。「何事もそれが習慣だからという理由で行う人は何も選ばない。最善のものを識別することにも希求することにも習熟することはない」ご清聴ありがとうございました。
司会:塙先生
では講演会第2部に移ります。白土先生よろしくお願いします。

第二部「食の常識を疑え!」

講師:白土先生
私、茨城県笠間市で4年前からあやか内科クリニックの院長をしています白土綾佳と申します。総合診療と認知症治療を中心にやっていて、今日はそこからたどり着いた食事についての話をさせていただきます。皆さんに二つお願いをしたいのです。一つはこれまでの皆さんの持っておられる常識と逆の内容がしばしば出てくると思うのですが、その違和感を大切にされてどちらが大事なのかを「自分ごと」として実際に検証してみてください。もう一つは、なるほどと感じられたり面白そうだなと思われたりした方は、今日から早速実践していただき担当患者さんへ説得力をもって指導できるようになっていただきたい。

私が認知症の診療を続けていて、もやもやしていたのは、従来の医療とは所詮、対症療法に過ぎなくて、より上流のところで治すにはどうしたら良いか、とか認知症を科学的に改善する食事というものが本当に存在するのか、また、介護されているご家族の方に何かギフトを差し上げたいな、とかがありました。その時に出会ったのが2019年に出た「アルツハイマー病 真実と終焉」という本でした。

内容は認知症診療のメソッドの一つである「リコード法」の解説なのですが、アルツハイマー型の認知症を36個の穴の開いた屋根に例えています。大きく三つのカテゴリーに分けられるのですが一つ目は「炎症」二つ目が「栄養の欠乏」三つ目は「有害毒素の暴露」です。アルツハイマーは「アミロイドβ」という有害物質が脳に溜まることが原因であると言われていたのですが、実はそうでは無くて脳が有害物質から神経細胞を防御する結果出てきたものであるという理論で、この三つの穴を塞ぐことによって認知症を改善することができると書かれています。その中でも特に食事が一番重要で、かなりの部分が食事療法についての説明になっています。一言で言うと「ケトジェニック・ダイエット」と言うことになるのですが、これは別名「パレオ・ダイエット(原始人ダイエット)」とも言われています。

私たちが普通に食べている食事は、人類史から見れば、実は全く普通ではないということになります。人類500万年の歴史の中で農耕が行なわれているのは最近の2万年だけなのです。更にこの100年で炭水化物の質が変わり、白米・小麦粉・白砂糖・コーンシロップから作られる糖のような、精製された糖質を日常的に食べるようになったのですが、この急激な変化に私たちのからだはついて行けていない。DNAは500万年前の狩猟時代に最適化されたまま変化していないというのが現実です。

まず疑っていただきたいのがPFCバランスです。Protein(タンパク質)Fat(脂質)Carbohydrate(糖質)の3大栄養素のバランスに関して、普通はこうだというものを疑っていただきたいと思います。よく、バランスよく食べましょうとか、まんべんなく食べましょうとか言われると思うのですが、「ケトジェニック」の考えでは、「糖質はできるだけ控えましょう」その代わり「質の良い脂質やタンパク質はしっかり摂りましょう」ということになります。厚労省推奨と言われる従来のバランスと比べると、ケトジェニックでは糖質と脂質のバランスが逆転しています。

従来の「バランス良く」というのは1980年代にアメリカで提唱された「食事バランスガイド」から考えられたものです。それで健康になるのかという科学的な根拠は無く、では何故こうなったのかと言うと、脂質の量を極力少なくしタンパク質も摂り過ぎは良くないという考えから、結果的に6割が糖質になったという経緯があります。しかし今ではこのPFCバランスは公的なものからは削除されています。

このバランスで作られた糖尿病食と言うのは、「ケトジェニック」から考えると大変問題の多い食事ということになります。血糖値が高いことが問題なのですが、タンパク質・脂質・糖質の中で血糖値を上げるものは糖質だけなのです。下の写真のような大目のご飯は当然血糖値を上げますが、それに比べ肉や魚は大変少ない献立になっています。

そして、上がった血糖値を下げるために、飲み薬やインスリンが使われることになります。「食事バランスガイド」が提唱された1980年代から急激に糖尿病患者が世界中で増え続けているわけで、ミスリーディングが招いた「失われた40年」と呼んでも良いと思います。

ちょっと専門的なことですが、私たちがご飯やパンや麺類などの糖質を食べると血糖値が上がり、そのままでは臓器の細胞にダメージを与える「糖毒性」ということになるので困るわけです。そこで膵臓からインスリンというホルモンが分泌され血糖値を下げる働きをします。しかし、インスリンというのは蓄えるホルモンです。血液中の血糖を脂肪に変えてからだに蓄えるというわけです。肝臓に脂肪が溜まると脂肪肝になってインスリンが効きにくくなる(インスリン抵抗性)ので、必要以上にインスリンが出るという悪循環になってしまいます。

ですから糖尿病の本質をどう捉えるかによって治療の方向性も変わります。血糖値が高いことに目を向ければ、インスリンの分泌を促す薬やインスリンを体内に補充することで血糖値を下げるということがゴールになってしまいます。しかし、糖尿病の本質を「高血糖」ではなくて「高インスリン血症」であると捉えるとインスリンは太るホルモンですし、癌細胞を増殖させる働きもあるので、高血糖を隠すのではなく、高血糖にならない食事を摂るということしか道は無いということを認識する必要があります。

「メタボリックドミノ」という考え方があります。

人生の後半になると出やすい病気は多々あるのですが、それぞれに対して薬を使えば多剤服用ということになりますが、その源流は糖質の摂り過ぎとそれによって起こる高インスリン血症と肥満ということなので、それをブロックすることでそれによって引き起こされる病気を全て予防することができるという考え方です。コロナ関連のニュースで「健康な肥満の人が重症化しやすかった」というのがありましたが、全ての病気の上流は肥満といえるわけですから、健康な肥満というのは言葉の矛盾ということになります。そう言う話をすると、「食べないとお腹が空く」と言う人がいるわけですが、そこにも実は罠がありまして、糖質を摂ると血糖値が急上昇しますが、インスリンが出ると今度は急降下するのです。この時に異常な空腹感を感じ「食べろ!」という指令がからだから出るのです。糖質の中でもご飯以上に急上昇・急降下させるものがパンや麺類のような小麦なので、「食べたい」という中毒症状が出やすいものです。それでは、糖質以外のタンパク質や脂質でエネルギー補給をしていたらどうなるかというと、血糖値がほぼフラットなので、朝食に糖質を摂らないとお腹が空きにくくなります。「信じられないと」言う人もおられるでしょうが、実際にご自分で体験し実感していただきたいと思います。糖尿病患者には保険適応の「リブレ」という持続血糖値測定器が普及して、いろいろなことがわかってきました。

たとえば、統合失調症の患者さんや認知症の患者さんなどが甘いものをたくさん食べて血糖値が急降下する時に精神症状が荒れるということなどです。甘いものをたくさん摂る人は精神的に不安定になりやすいということもできるわけです。脳のエネルギー源はブドウ糖だけと信じている人もいるわけですが、実は人間のエンジンはハイブリッドでして、「糖質エンジン」と「ケトンエンジン」があります。ではどちらが高性能なのかというと、蓄えているエネルギー量を比較した場合、「糖質エンジン」は390㎉、一方の「ケトンエンジン」は49,000㎉なので、比率で言うと1対100位「ケトンエンジン」の方が貯えは大きいのでスーパー燃料といわれています。

「糖質エンジン」しか使っていない人は夜食べても朝になれば枯渇しているので空腹を感じ、朝食を食べないと元気が出ないというのは事実なのですが、「ケトンエンジン」を使う人にとっては朝食を摂らないことは問題無く、空腹時の方がむしろ頭の回転が良いと感じるくらいなのです。ただ、朝から晩までずっと糖質を摂っている人は「ケトンエンジン」が眠ったまま使われることが無いのです。

また糖質制限をしても、すぐに「ケトンエンジン」が動き出すことは無く、錆びついたエンジンが動きだすまで1~2週間かかってしまいます。よく、糖質制限をすると体調が悪くなると言う人がいますが、うまく調整できれば2~3週間後からは「ケトンエンジン」が働き体調が良くなるということを知っていただければと思います。学生時代に生化学でエネルギー代謝の勉強をされた方もおられると思いますが、糖と脂質がエネルギーを生み出すわけですが、ATPというエネルギー通貨があります。ブドウ糖を代謝した場合の回路では38単位のATPが生まれるわけですが、一方で脂肪を分解してエネルギーを生み出す回路は129単位生まれるので、脂質が効率よくエネルギーを生み出すということがわかります。

甘い物の場合、「食べても食べてもまだ食べたい」という渇望感を感じやすいのは、からだが「もっとエネルギーを寄こせ!」というSOSなのですが、脂質をしっかり摂っていれば甘い物の渇望感は大幅にセーブされます。アルツハイマー型認知症については、別名「脳の糖尿病」とか「3型糖尿病」とか言われています。インスリン抵抗性というのはインスリンが効かなくなる状態のことであると説明したのですが、糖尿病でからだ全体のインスリン抵抗性が起こる前に、アルツハイマー型認知症では脳のインスリン抵抗性が起こっているといわれています。つまり脳が糖質をエネルギー源として使えなくなっている状態で、結果として神経細胞がダメージを受けて脳が委縮してしまうのがアルツハイマー型認知症といえます。

糖尿病の診断基準の一つHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)という数値があるのですが、まだ糖尿病になっていなくてもこの数値と脳の萎縮は相関性があり、数値が高ければ高いほど脳の萎縮が進んでいるということがわかっています。またメタボリックシンドロームという言葉を聞いたことがあると思うのですが、腹囲の大きさですが、これと記憶力の低下にも相関があります。つまり、肥満であるということと、糖尿病、アルツハイマー型認知症は実は同じ病態として説明がつくわけです。もしもご自身のHbA1cの数値が5.5以上であれば、すでに刻々とアルツハイマー型認知症に近づいているということを認識していただきたいと思います。

では、脳で糖質をエネルギー源として使えない人は手遅れなのかというと、ケトン体というのがあり、これは脂肪酸を燃やしてできる産物なのですが、これが脳に直接エネルギーを供給することができるといわれています。糖尿病の患者さんが重症化した時に「ケトアシドーシス」といって生命に直結する状態になることがあり、この時は血液中のケトン体の数値が跳ね上がるので、医療者の中で、ケトン体値が上がるような糖質制限食は危険だという声もありました。それが間違いであることを証明したのが、先ほど越智先生も紹介していましたが、産科の宗田哲男先生が書かれた「ケトン体が人類を救う」という本です。

先生は胎児や新生児はメインのエネルギーをケトン体で摂っているということを発見し、ここからいろいろなことがわかってきました。お母さんの母乳の中には中鎖脂肪酸が豊富に含まれていることとか、心臓や脳と言うのはケトン体が入ってくることによってかえって効率よくエネルギーを供給されるということなどです。ケトン体測定器で0.5~3.0であれば「生理的ケトーシス」といえますが、糖質を多く摂っていて「糖質エンジン」だけで回っているような人は0.2以下になります。程良くタンパク質・脂質を摂っていて、「ケトンエンジン」が回っている状態が「生理的ケトーシス」といって痩せやすい状態になっているといえます。先ほども言ったように、錆びついた「ケトンエンジン」が動き出すまで1~2週間、安定した働きをするのに2~3週間かかるのですが、個人差が大きく、女性の方が回りにくいといわれているのですが、しっかりした食事をしていれば必ず数値は上がってきます。よりケトン体を生み出しやすい食生活というと、16時間ファスティング(断食)と、MCTオイル・ココナッツオイルを摂るという二つがあります。

「1日3食」で人は老いていくということがわかっていて、先ほどの山田先生の提唱する緩やかな糖質制限・ロカボという方法は糖質過多の人にはそれはそれで良いのですが、3食の糖質を毎回3割減らすと言う方法よりも総カロリーは同じでも1日1食、糖質を抜く方が健康上のメリットは大きいといえます。例えば、夜は好きなものをしっかり食べても寝ている間は何も食べないので、朝食をミックスナッツとかチーズとかココナッツオイル入りコーヒーなど糖質を控えたものにすれば、昼食までの16時間は糖質が入ってこないために「糖質エンジン」が回らず、何が起こるのかというと「ケトンエンジン」が回りだすということになります。

ケトン体を生み出すためには従来言われていた3食きちんと食べた方が良いということも事実ではないということになります。実際に空腹になり「ケトンエンジン」が回りだすと「長寿遺伝子」がオンになるといわれていて、これが活性化することでからだが若返ったり、免疫力が上がったり、抗酸化作用が生まれたたり、抗癌の効果があったりします。実際この「ケトンエンジン」を回している人は仕事のパフォーマンスが良くなったとかも聞きますので、是非皆さんも「ケトンエンジン」を回すよう決意していただきたいと思います。肥満が解消し、肉体的・知的パフォーマンスが向上し、長寿遺伝子が活性化し、認知症予防も期待できるということになります。

糖質の種類では、米よりも小麦の方が有害度は高いといえます。精神科や心療内科の取り扱う不定愁訴、慢性の頭痛のほぼ全てに小麦が絡んでいて発症の原因となったり悪化したりする誘因であると考えられています。小麦に含まれる「グルテン」の成分である「グリアジン」という蛋白が腸と脳に炎症を起こす、遅延型アレルギーであるといわれています。日本人ではおよそ3割が「グルテン」の抗体を持っているといわれますので、もしも、自分も可能性があると思ったら1週間小麦を含む食べ物を摂らずにどこまで体調が良くなるのかを試してみることをお勧めします。

脳に炎症が起こると、異物を入れないための血液脳関門が破壊され、抗酸化作用を持つところが障害を受けたりするので、小麦を摂れば摂るほど認知症に近づいて行くのだともいえます。また、腸というのは免疫の最前線なのですが、「グルテン」で腸に炎症が起き、顕微鏡レベルでの小さな穴が開いた状態を「リーキーガット症候群(腸漏れ症候群)」といい、腸から、からだの中に異物が入ることによりアレルギーが起きやすくなります。過敏性腸症候群などの腸の炎症だけでなくアトピーやリウマチなどの原因にもなると考えられています。

これほど広い範囲でからだの不調に小麦が絡んでいることを知っても「パンは止められません」と言う人が、特に女性に多いです。それには理由があって、実は小麦を消化すると「エクソルフィン」というモルフィネ様の成分ができ、脳のモルフィネ受容器と結合して多幸感を感じやすいことがわかっています。つまり、依存性が高いために簡単に止められないということになります。それでも1~2週間だけでも頑張って止めてみると憑き物が落ちたように「何故自分は小麦が止められなかったのだろう」と感じられるようになり、止めることの辛さに勝る「体調の改善」が得られるので、誰でも小麦異存を脱することができるといわれています。

次に脂質についての話をしていきます。ここでも従来の常識が変わってきています。カロリーを摂り過ぎないために肉の脂身はなるべく食べない方が良いとか、「コレステロール」値が上がらないように卵・うに・イクラはあまり食べない方が良いとか今も信じている人がいますが、世界中で過去の常識となっています。パラダイムシフトが起きているのです。1984年版のタイム誌では「卵とバターは控えよ」という特集が組まれていたのですが、2014年版では「バターを食べろ」という風に、全く逆の特集を組んでいます。

以前は、動脈硬化から心筋梗塞や脳梗塞を引き起こす犯人が「コレステロール」と考えられていたからなのですが、実は動脈硬化の犯人は脂質ではなく糖質であるということが新しい常識となっています。「コレステロール」の8割は肝臓から作られていて、食事で「コレステロール」を減らすと、からだが飢餓と認識してより多く作り出すので食事制限をしても「コレステロール」値は下がらないということが今ではわかっています。米国の学会では脂質制限は無くなり、制限をしたからと言って、肥満予防になったり心血管イベントが減少したりするということは無いという証明がなされています。糖質制限に関してもパラダイムシフトは起きていて、肥満治療に関して、「推奨されない」から「第一選択肢であって時間的な制約は無く勧められる」という風にアップデートされています。

ただ、私達医療者の弱点だと思うのですが、以前間違っていたことをはっきり認めて訂正するのではなく、何となく変えていくことがあるので、間違った常識がそのまま残ってしまっていることがあると思います。メアリー・T・ニューポートさんと言う小児科の女医さんが書かれた「アルツハイマー病が劇的に改善した!」という本がありますが、認知症診療に携わる医師からも非常に注目をあびていた本で、進行性のアルツハイマー型認知症のご主人に関する食事療法について書かれています。食事の中にMCTオイルとかココナッツオイルといった中鎖脂肪酸を多く含む脂質を取り入れたところ、2週間で劇的に改善したことを報告しています。

先ほども言ったように、脳が糖質をエネルギー源として利用できなくなった人に糖質制限と中鎖脂肪酸を多く摂ることにより、ケトン体が作られ、認知機能が回復することを実証しているわけです。これは治療よりも予防に取り入れるべきで、糖尿病・認知症・自閉症などを防ぐために、日常生活の中に、MCTオイル・ココナッツオイルを取り入れることが重要であるといわれています。例えば、朝食にミックスナッツ・ココナッツミルク入りコーヒーなどを摂ることで、糖質を制限してケトン体値を上げやすくなるのでお勧めです。

50歳代、60歳代の女性は更年期の問題からLDLコレステロール値が上がりやすいのですが、これは悪玉コレステロールと呼ばれ、「スタチン」という数値を下げる薬が高確率で処方されています。実は「コレステロール」と言うのは脳にとって大変重要です。脳は多くが脂質からできていて、細胞膜は「コレステロール」でできているので「コレステロール」の合成を阻害する「スタチン」をのみ続けることによって認知症のリスクが上がるといわれているので、肥満や病気の無い人にとって「スタチン」はのまない方が良いということになります。80歳代、90歳代で食べる量が減っている人が「スタチン」をのむと認知機能が低下するリスクが上がるといえますので、止められる人は止めた方良いというのが新しい常識です。

次にタンパク質について説明します。英語ではプロテインといいますがこれは「第一となるもの」というのが語源です。人間のからだは全てタンパク質でできているので、新鮮なタンパク質を毎日しっかり摂っている人とそうでない人を比べてみましょう。私達のからだの細胞は1~2ヶ月で全て入れ替わるのですが、新鮮なタンパク質を摂っている人はそれを材料にできるのに比べ、摂取量の少ない人は古いタンパク質をアミノ酸に分解して使い回すかたちでリサイクルをしながらからだを構成することになるので、細胞の質が悪くアレルギーの原因となるといわれていますので十分なタンパク質を摂るべきです。

ある年齢になると、からだのむくみや冷えやふらつきの出る方がおられますが、これは実は低タンパクの症状だったりします。また薬に対して副作用が出やすい方というのは、吸収する粘膜・酵素が弱いことが理由なので、薬を変えることよりも、しっかりタンパク質を摂ってからだの基盤を整えることの方が重要です。ではどの位のタンパク質が必要なのかというと体重㎏あたり1.2~1.5gのタンパク質を1日に摂ることとなっています。

ただ、70gのタンパク質というのは70gの肉というのではなく、100gの肉には15~20gのタンパク質が含まれているといわれているので、体重50㎏の人が50gのタンパク質を摂るためには1日250~300gの肉を摂る必要があります。豆腐だと1丁で15g、卵1個が6gです。昔だと卵は1日1個までとか言われていましたが、今は何個でも食べて良いということなので、肉が食べられない方は卵を上手に使ってタンパク質をしっかり摂ってください。自分の体重から計算して、すぐにでも必要なタンパク質を摂るようにするのが良いと思います。

アメリカ人は日本人の3倍の肉を食べているということなので、肉の食べ過ぎに言及していますが、日本人は食べる量が少ないので食べ過ぎを気にすることはない、ということになります。腎機能が低下している人の場合はタンパク質の摂取を控えなくてはいけないと言われていたのですが、最近の知見ではタンパク制限をしても、腎機能の低下を防ぐことは無いということがわかっていて1㎏あたり1gということを恐れる必要はありません。

肉を食べ過ぎることの問題として、肉を代謝してできる「ホモシステイン」というアミノ酸が認知症のリスクになるといわれていますが、これも糖質過多の食事だと、ビタミンBが消費されてしまい、ビタミンB不足から起こることなので、心配な人はビタミンBサプリメントを併用することで問題は解消されます。

特に高齢者はタンパク質をしっかり摂る必要があります。夜の食事は若い方と一緒に摂るので問題ないことが多いのですが、昼食を一人で食べるときは億劫になって、ほぼ糖質だけの食事で済ませてしまうこともあり、食が細い若い人でも低タンパクというのは悪循環を招きます。

普段から低タンパクの食事を続けている人は、消化管や酵素の働きが弱く消化吸収能力を落としてしまいます。ですから、低タンパクで肉を食べていない人が急に食べ始めると下痢をしたりお腹が張ってしまったりとかして体調を崩す場合もあります。しかし、そういう人こそが低タンパクで消化吸収能が落ちてしまっているのでタンパク質をうまく摂る必要があります。どうするかというと、1年位時間をかけてゆっくり増やしていく方法や、液体とか粉状のタイプのプロテインをおやつ代わりに摂るといった方法があり、これらでタンパクを補っていくと、からだの状態は良くなります。

これまで糖質・脂質・タンパク質についての話をしてきましたが、最後にこれは3大栄養素とは違うのですが、是非知っていただきたいことがあります。それは鉄についてです。特に生理のある年代の女性にとって非常に重要です。血液検査の数値で大事なのが「フェリチン」というものなのですが、別名「貯蔵鉄」といわれていて、からだに備蓄しておく鉄なのです。100ng/ml以上が理想なのですが、50~100が軽度の鉄不足、30~50が中等度鉄不足、30以下が重度鉄不足といわれていますが、日本人で100以上という人は2%しかいなくて、98%の人が鉄不足ということになります。

6割の人が30以下の重度鉄不足で、日本は「鉄不足大国」と言っていい位低い状態です。鉄不足になると、二つ困ったことがあります。エネルギーを生み出す回路の中の特に電子伝達系で鉄が使われているので、体が鉄不足にさらされてしまうと、食べても食べてもATPが生まれないという状況になり、エネルギー不足に陥ります。そうすると、からだがだるい、疲れやすい、やる気が出ない、思考がまとまらない、集中力が落ちる、などの状態になります。

また、慢性的な頭痛・腹痛・肩こりといった漠然とした不調も鉄不足が引き起こします。もう一つは精神的なものなのですが、気持ちの安定感に関係する「セロトニン」というホルモンは鉄が材料として使われているので、鉄不足になるとイライラして他人に当たってしまうとか、落ち込みやすく鬱っぽくなるとか、不安が強まりパニックになるなどと言った気持ちの不安定さが表れます。心療内科を受診すると、鬱病だとかパニック障害とかの精神科の病名がつけられ薬が出されることになりますが、実は単なる栄養不足であったと言うわけです。

当クリニックを受診される10代後半から50歳代の女性の多くは鉄不足で、鉄剤や鉄サプリを使うことにより1~2か月でからだの不調が良くなってきます。

この鉄不足の厄介なところは、世代を跨いで症状が連鎖しやすいということです。お母さんは出産のときに赤ちゃんに「フェリチン」を40~50くらいあげるのです。では6割が30以下という日本人女性が出産するとどうなるのかというと、お母さんは「フェリチン」が空っぽになって「産後鬱」になりやすいし、赤ちゃんは十分な「フェリチン」をもらえないまま生まれてくると「鉄不足ベイビー」になってしまいます。女の子は比較的鉄不足には強いのですが、生理が始まるようになると更に鉄不足になるのでその頃から体調不良になっていきます。男の子は鉄不足には弱いからだなのですが、男性の理想は200ng/mlですので、鉄不足だとかなり深刻な症状が出ます。小さな子供では中枢神経系の発達に影響を及ぼし、ADHDのようなものにも関連があるので、できれば小学校に入る前位に発見し、鉄を補うことによって改善が期待できるということになります。

何故こういう重要な問題が放置されているのかというと、医療が栄養を軽視していて勉強がされないということ、野菜に含まれるようなミネラルが少なくなっていること、諸外国では小麦・醤油・塩などのような誰もが口にする食材に鉄不足を補うため予め鉄を添加することが当たり前になっているのに日本では全くそんな対策がされていないといったことなどが原因です。

国が対策を講じれば、働き盛りの日本の女性の体調が改善されますし、労働生産性も上がりますし、お母さんの機嫌が良くなり家庭が平和になるということも期待できます。

ただ、国がすぐに動いてくれることはないので、「フェリチン」値を測定して鉄不足がわかればサプリメントを使うなりして対応することが大事です。

最後に当院での新たなチャレンジを紹介します。食事というのは、私たちのからだの状態や病気の予防に大変重要なので、今後は積極的に食事指導をやっていこうと考えています。ただ、管理栄養士さんを外から呼んでお願いする場合、従来の教育を受けられている方だと、カロリー制限とか肉の脂身や卵の制限などをしていただいたのでは全く意味が無いので、「ケトジェニック」の教育に基づいてスタッフを育てていて、院内でそういうスタッフが指導できる体制を整えたいと考えています。

今日の話を聞いていただき、「ケトジェニック」は良いけれど簡単にはできないな、と感じておられる方には2ステップで始められることをお勧めします。

初めから糖質を控えて食事の質までも求めてしまうと随分難しいと思います。ですので、ステップ1はまず「糖質依存からの脱却」です。糖質に依存していると、空腹を感じたり、食べられなくなったりということが恐怖になりますので、ご飯を無くしてその分おかずをたっぷり摂って安心することから始めます。これを続けていくと、主食という概念が無くなり、空腹を感じなくなります。しかも体重は段々落ちていきますので、そうなってやる気が出てきたから、ステップ2の「質を高める」に移ります。加工食品に頼らず手作りのものを食べる、とかです。
ステップ1の「糖質依存からの脱却」がどうしても困難であれば、まずは小麦だけでも止めてみるということから始めても良いと思います。うまくいけば、「好きなものを食べることを我慢しなければいけない」という不快感よりも、「からだの調子が良い」という効果の方が上回ってくるようになると、楽しくなってきて更なるステップにも取り組めるようになると思います。薬を使わないで健康になる方法ですから、これからも多くの方と情報を共有していきたいと考えています。

最後にジョコビッチ選手のコメントを紹介させていただきます。「あなたが望みうる最高の自分になりたいと願うなら私が勧められることはこれしかない。まずは食べ物を変えることから始めてみたらどうだろう」 健康に関する選択肢はいろいろあるのですが、一番初めにやるべきことは糖質制限、糖質を摂り過ぎないということで、そこをクリアすることだと考えています。ご清聴ありがとうございました。

Q&A

司会:塙先生
越智先生、白土先生、ありがとうございました。これから質問のコーナーに入ります。沢山の質問をいただいていますので、いくつか選んで答えていただきます。まず「糖質制限を効果的に行うのは、朝・昼・夕のどのタイミングでしょうか?」という質問です。
講師:白土先生
先程の16時間ファスティングということで、一定の時間糖質が入ってこないとことのメリットを最大限活かすという意味では朝か夜ということになります。それぞれメリットがあります。日本人の場合夜の食事をしっかり摂る傾向があるのでその時の糖質を制限してあとは寝るだけでエネルギーを使わないという点ではメリットと言えます。朝食に関して言うと元々日本人はそれ程がっちり摂らないので、朝あまり食べないことはそれ程苦ではないので、どちらでも良いと思います。私に関しては先程紹介したように朝は糖質を摂らないのですが、夜は半々くらいで家族と一緒に糖質を摂ることもあります。
司会:塙先生
では次の質問です。「ケトジェニック・ダイエットを始めるのに、年齢は関係ありますか?」
講師:白土先生
早ければ早いほど良いと思います。けれど全年齢層でメリットはあるので、遅過ぎると言うことは無いと思いますが、「善は急げ」で、気づいた方から始めれば良いと思います。ただ、リコード方によると、認知症の予防と言う観点からは、脳の細胞の変化は40歳から始まっているので、それまでに始めるのが理想ではあります。ただ、今認知症を発症していないのであれば、効果は期待できるので、早めに始めましょう、と言うことです。
司会:塙先生
次の質問です。「緩やかな糖質制限と週1回の16時間ファスティング位では、あまり効果は無いのでしょうか?」
講師:白土先生
これに関しては、何を求めるのかによって異なります。がっちりやれば、それに応じた効果が期待できますが、これまでしっかり糖質を摂っていた人がそこから初めて、効果を実感できるのであればそれで良いのですが、体感して体調の良さが快感となれば、そこに留まらず、無理なく広げていくことが必ずできるので、効果を疑問に思うよりもまずやってみてそこから先はそれから考えるという風にすることが大事だと思います。
司会:塙先生
次の質問です。「グルテンフリーのパンやパスタが最近、日本でも普及してきましたが、グルテンフリーであれば、摂取しても良いのでしょうか?」
講師:白土先生
これに関しては、正直、△と言うか、グルテンに関しては一番依存性が高く、グルテンフリーに依って過食が防げるので、そこをとっかかりにするというのは悪くないと思います。ただ、グルテンフリーで米粉を食べるのであれば糖質を食べていることには変わりないので、糖質を控えるということをゴールにするのであれば、まずグルテンフリーから初めて体調をみながら次の一手を考えるというのが良いと思います。
司会:塙先生
では、最後の質問です。「血統コントロールに加えて、高尿酸血症のコントロールのための食事療法に悩みます。糖質制限が高尿酸血症に与える影響について教えてください。」
講師:白土先生
これに関しては、私、わからないので課題にさせていただきます。高血糖に関しては糖質制限が間違いなく意義があるのですが、それによって肉をそれまで以上に摂ることによって高尿酸血症にどういう影響が出るのかはちょっと私もわかりません。
講師:越智
尿酸値が高いと、ビールが駄目だと言われたりとか、プリン体ゼロのアルコール飲料が開発されたりとか一時期話題になったのですが、実はLDLコレステロールと同じで尿酸も必要に応じてからだが作っています。尿酸は抗酸化作用が強くビタミンC以上だと言われています。勿論ある程度以上の高尿酸はからだにダメージを与えますので、何故バランスが崩れてくるのかと言うことが問題だと思います。
講師:白土先生
本当に栄養に関してはかつて私たちが持っていた知識が全部覆されるような状況なので、従来の知識を拠り所にして答えを導き出そうとすると、それがミスリードの原因になることもあるので、新しい情報を随時入れながら情報発信をしていきたいと思います。
司会:塙先生
越智先生、白土先生、どうもありがとうございました。今日はこれで質問コーナーを終わりますが、今日答えられなかった質問に関しては、今後もこう言う機会を継続してもっていきたいと考えていますのでその時にお答えしたいと思います。それでは、これをもちまして本日の講演会を終了します。