2020年3月1日GPPJ総会pdp講演会

「pd診療にとってマイクロスコープは必要か」
— 1人ディベート −

演者:前村 学先生 (三重県伊勢市開業 pdp 常務理事)
司会:越智 豊先生 (埼玉県上尾市開業 pdp 専務理事)

日時:2020年3月1日(日) 13:00−15:00
場所:メルパルク京都7F

司会 越智 豊:私はpdp専務理事で埼玉の越智と言います。そして今日一人ですけれどもディベーターをやっていただくようお願いしました三重県伊勢の前村先生です。
ディベートの簡単な説明をしたいと思います。

いろんな解釈があって、先生によっていろいろ説明が違います。これは一つのある先生の定義ですがとても分かりにくいです。
「一つの問題に対し、2チームの話し手が肯定する立場と否定する立場に分かれ、自分たちの議論の優位性を聞き手に理解してもらうことを意図した上で客観的な資料に基づいて議論をするコミュニケーション形態。」

今回やるのは実はディベートでは全然ないので、ディベート風講演会と理解していただきたいと思います。いろんな理由で規模を縮小してやらざるを得なくなりました。本当はこれの10倍位の規模でやりたかったのですが、刻々と変わるコロナ事情に左右され、日々見解を出す政府の指示にも従い、どんどん小さくして行っていってこういう形で実施することになりました。最初に考えていたのはひとりディベートではありません。最低1対1、本当は3人対3人くらいで進めようと企画をしました。

論題は最初から決まっていまして
「pd診療にとってマイクロスコープは必要である」
これが肯定側の論旨になります。
対する否定派は
「pd診療にとってマイクロスコープは不要である」
という展開をしていきます。

ひとりディベートというのは安易な企画ではないかと言う人がいますが、実際には学習形態でもあり専門の先生もおられます。良く考えると、私たちは普通に生活していて考えたり、行動したり、結論を出す時に、皆自分でひとりディベートしています。意識しながらでも無意識のうちにでも。飛行機の機内食で肉か魚かの選択を訊かれ、お酒との組み合わせや、体のことなど色んな事を考えて決めるわけです。でも両方を選択することは絶対できません。ディベートの鉄則としてどちらかに決めないといけません。そのためにこの判定用紙がありますから、記入する方は記入して下さい。回収も集計もしませんが最終的に肯定側、否定側どちらの考えに賛同するか挙手を求めますから、必ずどちらかに手を挙げてください。

まず最初は肯定側立論を約20分間でやります。その直後に否定側質疑を求めます。それが終わりましたら否定側のプレゼンテーションをしていただきます。これも同じく20分位です。その直後に肯定側質疑を受けます。それが終わったら一旦休憩を入れます。そして最終的に反駁と言って、結論を一人二役で出します。その直後に私の方で肯定を支持する人、否定を支持する人の挙手を求めます。一応そのように予定しております。

では前村先生、準備はよろしいでしょうか、お願いします。

Dr前村 学: 1人ディベートをしないかという話が出てきたのはほんの数日前でした。それまでは僕は否定側の代表ということで準備をしていました。その否定側の内容としてそれなりにスライドを用意していたのですが、越智先生からそれではスライドが多すぎ、ということで少なくして、論戦に時間を注ぐように準備をしていたのが、急転直下、肯定側の資料も用意しなければならない、しかもひとりでしなければならない、となると、あまりにスライドが少ないので、今度は膨らますという努力をここ数日間やっておりました。
そこまでしてディベートする必要があるのか、ということです。

ディベートというのはその論戦の内容というか手法というか、論戦自体を楽しんでいただき、興味を持ってみていただくということです。が、やはり我々としてはそのディベートの向こうにあるマイクロスコープとpdという2つの言葉、この辺をどのように考えていくか、どのように分析していくか、と言うことに興味があります。この度折角用意した資料は是非ご披露したいということで、提示をさせていただくことになりました。

ひとりディベートしますから、こちら(左)向きに本来の肯定側代表の橋岡先生役、否定(右)向きで私をするということや、顔半分を化粧してとか、ジャケットを2つ繋ぎ合わせて色を色変えようかなと考えましたが、それはあまりに失礼でしょう(笑)
ディベートとしてはちょっとなし崩し的にグダグダになるかも分かりませんが、皆さん自分の中で一人ディベートを展開していただけると嬉しいです。

ではさっそく肯定側立論を行いますが、最初これを6分間で納めろというお話だったのですね。この度20分にふやかしてありますので、ゆっくりいきます。

肯定側立論

<スライド1>

論題「pd診療にマイクロスコープは必要である」という論題をいただきました。そもそもpd診療とは何か、この議論だけで相当な時間、日数がかかるでしょう。
コースを受講される先生向け説明やWebサイトのトップページでの説明では、
「pdとは、生理学的由来の言葉で、五感のほかに人間が持っている固有感覚を最重要視し、私たちの姿勢、動き、器具、道具などに対して、その是非を判断、評価するプロセスです。」とあります。
体の状態が平衡状態、すなわちバランスのとれている時が最も安定で、精密で、正確な作業を行うことができます。具体的には0.2㎜の精度は出しましょう、しっかり3°のコントロールをしましょうということです。
これ皆さんできていると思います。釈迦に説法ですけれども皆さんそうだと思います。僕自身も日々これは意識しています。それを図にするとこんな風になるわけです。

<スライド2>

(左)お馴染みの図であります。だいたい明視距離としては25㎝から30㎝位になり、ハートレベル、心臓の高さ位が、Gross Muscleに乗るFine Muscleのコントロールに一番適切となります。

この0ポイントは基本ハートレベルで、胸骨の前になりますが、人によって少々違うかもしれません。もうちょっと下の人、もうちょっと上の人がいるかもしれない。それが個人のpdですが、一応過去のデータとも合わせてこのように今は説明させていただいています。

(右)嬉しいことにこの図とそっくりの写真が撮れたのです。
2年前の最初のMCTCコース、東京モリタで行われたコースです。この女性はその時の東京モリタの衛生士さん。肘はまっすぐ降りているし、手はまっすぐで手首も曲がっていない。なんと言っても非常に優しいですよね。グリグリ感が全くない。こんな状況で治療されたいという、ほんわかとした状態で撮れたのが僕の中での一番の成果でした。
<スライド3>

では体の姿勢が良かったら、何でもかんでもその一点だけで良いのかというとそういう訳ではなくて、我々の体というのは、いろんな方向にいろんなパーツが並んでいるわけで、歯科治療では歯根のベクトル、歯の植わっているベクトルというのを十分意識しないとダメです。このベクトルに対してどのように自分の体をもっていくか。自分が動かす方向と力をこのベクトルに添わせないと、ちゃんと判断、治療ができないということになってきます。たくさんのベクトルがあります。
このベクトルを意識しながら、先ほどの0ポイントを合わせていくためにmiがありますよね。

<スライド4>

これが我々の武器でもあるわけです。これを知っているか知っていないかによって、例えば、それこそマイクロスコープを使う時に、どうやって使ったら良いのかと考察する基準になってくるのです。私たちはそれを持っています。もうすでに習得していただいているのです。

<スライド5>これは私の診療室での写真です。

(左)ma16一級窩洞形成時の写真です。本当は患者さんを撮りたかったのですが、さすがにそれは患者さんに悪いなと思いSATVマネキンを使っています。もちろん患者さんもこの位置ということになります。先ほどの東京モリタの衛生士さんと比べるとちょっと肘が前にいっているんです…
努力はしているんですけど猫背です。子供の頃姿勢が悪かったんだろうなと、タイムマシーンで戻れたら嬉しいです。これが僕のpdです。
もひとつ、腹がでています。患者さんの頭がぶつかるので、ちょっと引かないといけません。患者さんの整髪料とかお腹の辺に付くわけです。女性の方は僕の肉が当たることをやはり快く思ってくれないだろうと、やはり引いてしまう。それも併せて腕がちょっと前にいってるのかなと思っています。この辺は改善できるかもしれません。お腹がへっこんだら、もう少し理想にくるのですが。

(中央)そしてそのままマイクロスコープを挿入した状況です。ちゃんと見えてます。まさにその時のリアルな記録です。やってる最中ですね。ピントがボケている訳でもなくぴったり。どうでしょう目の高さ、0ポイントの高さ。でもそれはこのマイクロスコープが特別で、形成時に照準合わしていますので、その他の処置の時はどうなるのでしょうか。

(右)一番右の写真は髄腔開拡後のEndoを想定して、ファイルホルダー+Hファイル入れる状況です。別段手首は曲がっていないし、腕はまっすぐだし、形成時設定から何ら変えることなくできています。随時自分のpd状況に合わせて道具をセッティングしますが、なんのストレスもなく、普段の姿勢とマイクロスコープ使用時とを変えることなくできます。

ただし注意点として、必ずしも人によって0ポイントの高さが違うということ。そしてマイクロスコープの焦点距離はメーカーによって全然違うこと。また同じメーカーでも全然違う機種を出している場合もあります。これは後述させていただきます。
さあ、そうまでしてマイクロスコープを使ったらどうなるのか。
<スライド6>

見・え・る・の・で・す・よ!

ma46です。

(左)これは近心根です。下顎ですから(このView30では)近遠心逆転しています。近心頬側根、近心舌側根ということになります。この辺に赤い丸のようなものがありますね。

(右)これは同じ歯牙の遠心根です。こちらも真ん中に赤いのがありますね、これ根尖孔なんです。今日のプロジェクターでちゃんと映るか心配していたのですが、映っていて良かったです。これがドクンドクンと脈を打っているのです。僕はこれを見たとき、とても興奮しました。今まで見えなかったものが見えたのです。見ようと思って見た訳ではなく、このケースでの初めての写真なんです。

これが見えてどうなのか、と言われると何とも言えませんけれども、見えている中で3次元的なイメージをしっかり頭の中に構築して治療ができるというのは、気持ちに余裕がでてきます。その点では何でも見たくなってきます。

<スライド7>

別の症例です。これは予約外の患者さん。僕のところでは予約外の患者さんを診るかどうかの判断基準は、昨日の晩眠れたかどうか、眠れないくらいの痛みがある方は、本来の患者さんの時間を少しづつ頂きながら診させて貰うわけですが、まさにそういうケースです。ところがそういう例に限って、応急処置も含めて時間がかかってしまうこと、ありません?30分位予定がずれてしまうとか、なるべく早く終わらせたい。

(左)これはチャンバーオープンした後です。もう失活しています。急性だからか、レントゲン写真では根尖の透過像がいまいちよく分からない。これから判ってくるんでしょうが、急性の場合はまだ硬組織の変化というのはタイムラグがあるでしょうから判らないのですね。実際開けてみたら近心頬側根管口だけ黒いんです、汚いんです。そこをターゲット絞ってこちょこちょと今ファイリングしている最中です。

(中央)ある程度やっているとこれは副根管があるではないかと、第4根管を見つけそれをグスッと穿孔したらpus(膿)が出てきました。

(右)pus(膿)が出てこなくなるまで拡大したのがこれ。ものすごく時間短縮できました。それまではたぶんこんな形態かな?と予想しながら、試行錯誤しながら拡大していくとどうしても時間がかかってしまうのです。すべてがそうではないと思いますけれども、マイクロを使うことによってかなり的を絞れ、しかもその結果をダイレクトに目で見ることができた、ものすごく時間短縮となって助かりました。みんながみんなこうだったらいいのですけれども、こういう事例があったということも事実です。

<スライド8>

これは他の医院さんで(ファイルを)折られたと、来られた例です。「先生が上手だと聞いたので取って欲しい」と言われ頑張って取り掛かりました。まずデンタル撮りました。何か変な根管像だなあと、勿論根尖病巣があるわけですが、

(左)仮封材取ったら、これ下顎の5番ですけれども2根あるなと、舌側にキラキラするものがあるのです。これが折れたファイルだろうな、勿論写真を偏心投影して確認してもいいのですが、ここまで分かったらもう開けてしまおうと。適切なサイズのルートチップを使いながら超音波スケーラーでコリコリやっていたら、破折ファイルがポロンと取れました。

(中央)(右)これが取れた後、これが取れた物。その直後のデンタルという状況になります。

マイクロを使用しない以前は、こうかな、ああかなと何度もレントゲン室に行って写真撮りながらやっていましたが、結果は同じかも分からないけれども、時間的差はかなり出たと思います。やはりこれも時間短縮としてかなりメリットがあったと思います。

<スライド/ビデオ9>

次、でもそういうのは比較的条件が整っている時患者さんで口がたくさん開いて光も十分届く範ちゅうだからではないのかということになります。

これは女子高生、あんまり反応がなくって、非協力的ではないけれども「ウーン」と言う感じ。なおかつ顎関節症でクローズドロックしています。関節円板前方転位というパターンです。開口量としては2横指以下。う蝕歯があり冷たい物飲んだり、温かいもの食べた後5分間位痛い。TMD治療をして開口できるまでう蝕を放っておくのか、それもよろしくないですよね。

どうにか患者さんにストレスを与えずにどこまでのことができるかな、とマイクロスコープでやってみたら…結構いけるのです。当然開口量が少ないのでペリフェラルビュー(peripheral view)真横からミラーで見ますが、ウエットビューになります。これはデジタル変換したHD解像度で良く見えていませんが、実際の接眼レンズ経由ではかなり見えています。

ある程度濡れてきたらウエットビューにするため頬粘膜細胞を擦りつけますが、十分見れます。光も十分届いています。開口量が少ない時に光を届けるというのは、我々Feel21のツインライトでやっていますが、さらに真上から光を落とすとさらによく見えます。影が少ない。やはり光は大切です。

(動画後半)今View3で見てます。どうでしょうか?ちゃんと見えていますよね。
理想的な状況でなかったとしても、マイクロスコープは有利だと思いました。非常に見にくい面倒な嫌な状況の中でも、いつも通りのことができたという例です。

<スライド10>

それから記録ができるのです。先ほどの様に動画が記録できる。もちろん静止画も記録ができる。術者が見ている映像と全く同じものが記録できる。カメラで撮ってもいいのですが、カメラが撮っている映像というのは必ずしも術者目線の映像じゃないですよね。一眼レフを使えばいいでしょうが、一眼レフを持ってくるというのは最近あまりないのではないでしょうか。ペン型のスコープで写真を撮ったりすることはありますが、術者目線ではない。

左側は扁平苔癬、2次病院に送るのに扁平苔癬の疑いがありで紹介状持って行っていただくのですが、この映像を添付するのです。患者さんに「こんなのがありますが、病院に行きませんか」と言うのにも説得力あるわけです。患者さんに手鏡で見ていただいても、こんなにおどろおどろしく見えない。ほんの少し糸くずがついているかな、という程度にしか患者さんには見えていないようです。

右の例はおばあさんでビスフォスフォネート飲まれている方です。義歯で硬いもの噛むと痛いと初診で見えた方です。指で押していくと「そこそこ!」というところがあるのです。レントゲン写真撮るとモヤモヤしたあまり気持ちよくないものが映ってきます。これは何か、やはり顎骨壊死の疑いの可能性が高いということで、これも患者さんに映像を見てもらいながら、紹介状にBRONJ疑いと記載しました。

従来にない精度での記録がとれるところが大きいと思います。だからわざわざカメラ持ってこなくていいのです。今見ているものを、リモコンでポチッとやっていただいたら記録されます。

<スライド11>

否定側からの質問を1つ想定して先に出してみましょう。
「拡大したら、大きさの絶対感覚が分からなくなってしまうではないか?!」

皆さん1㎜ってどれくらいですか。裸眼だったら絶対感覚として1㎜が分かります。では拡大したらいちいち計算するんですか?何倍の拡大だから見えている1㎜が1㎝になるとか。そういったことを計算しなければならないのでしょうか。

そんなことはしなくていいのです。pd診療の中では道具をできるだけ少なくしようと、バーもできるだけ厳選しましょうと、そのバーの厳選の仕方も元々我々がもともと持っている解剖学的に適切なサイズにもっていきましょう。いつも同じバーを使っていたらそれがメジャーになりますよ。
「バー・イズ・メジャー」という標語でやっていますよね。(No9)この幅が0.9㎜ということになります。長さが約4㎜、これでズボッといくわけです。ですから普段から我々pd診療の中では規格としているバーを使うことによって、大きさに関しても十分把握することができます。

ところでこれはディベートとは関係ないのですが、この規格に添うバーってありますか。皆さん#10#4のダイヤモンドバーとかどうされています?一時停止そして再生産されて配布できるようになったんですが。僕はなるべく当然これに近いサイズのものを選ぶようにはしています。
それとNo.9#1557のバーはシリンダー形態で、上から下まで同じ太さです。テーパードではありません。印象系の形成では、どうしたらいいかな、と悩んでます。これは今回のディベートとは関係ありません。

<スライド12>

去る2月の中旬位に名古屋にて、中部デンタルショーがありました。そこにあった全てのマイクロスコープの写真を撮ってきました。

(上左1番目)左上が実際僕の診療所の中での先ほどの写真です。ライカのM320、それにウルトラローというオプションを付けています。肘がやや前なのはお腹のせいです(笑)。胸骨の前、手首もまっすぐです。いつも通りの私の標準のスタイルです。

(上左2番目)これと全く同じ商社のウルトラローというオプションなしのバージョン、同じ型番の通常のノーマルバージョンのM320です。焦点距離がピッタリ来るのがここになるのです。尚且つこれ以上上に上げるとボケてくる。これより下げることはできます。この段階では胃レベルよりちょっと低い、おへそレベルかな、となるのですが、僕は手首が曲がってしまうのです。感覚としてもちょっとおかしくなってくる。

(上左3番目)さらに同じブースに同じくライカ社のマイクロスコープが置いてありました。高そうに見えました。本当かどうか、1200万円と言われました。それならその奥にあるCT欲しいな、と思いながら見てました。ハイエンドな機種もあるわけです。本当によく見えるのです、きれいでした。グレードアップしたという感じですね。ところがこれ以上上がらないのです。何故かというとマイクロのせいではなくて、下の診療台のせいです。これ以上上げたいと訴えたら、それ以上は上がらない、それでいっぱいです、と言われました。これ以上上げるには診療台に下駄をはかせて下さい、と言われました。仕方ないので、そこに置いてあるマネキンでma16をやるとこんなになります。手首しんどいデス。
(上左4番目)これはA社。手首曲がります。

(下左1番目)これはメーカー忘れました、初めてきいた名前でした。手首曲がります。

(下左2番目)これはB社、手首曲がります。

(下左3番目)これはC社に置いてあるカールツアイス、これもきれいでした。一瞬これも欲しくなったのですが、これで高さは目一杯だったのです、比較的上なんですけれどもちょっと余裕がないという状況。これは下げるのは得意で、(パントマイム)この辺まで行きました。焦点距離の調整としてはこの辺まで行くことができる。

(下左4番目)これはA社の面白いマイクロスコープというか、接眼レンズがなく、カメラなんです。重要なところにカメラを置いて、目の前のこの辺に置いてあるモニター見ながら今やっているのですけれど、後で出てきますが、ひょっとしたら視軸の違和感が少ないかな、とも思ったのですが、まだ画質が4Kで、やはり接眼レンズで見ているアナログのレンズのきれいさには程遠く、奥行きがなかなか分かりにくい。それでもこれがとても小さくなって顔の前、眼鏡の前くらいにきて、尚且つ8Kやそれ以上になればひょっとして、と思い面白かったので、毛色の違うものとしてスライドに入れました。

pd診療をしている先生方であればご自身の0ポイントを十分把握されていて、基準があると思います。その基準を持って、実際に座ってみて、接眼レンズを見ながらかつ目を閉じて下さい。そうすると今まで目からの情報でマスキングされていたpdの情報、筋肉の情報、体の情報がフワーっと伝わってきます。今自分が肩凝っているとか、手首が曲がっている、とか目を閉じるとすごく分かりやすいのです。そういうことをすると機種選定に関してはそんなに悩まなくていいんじゃないかと思います。

こんな機能がついているからいいよとか、先輩がこれを勧めたとか、歯科商店さんから今これ安いとか、そういうことで機種を選ぶのではなくて、自分の体の方から訴えてくる情報を決め手として選んでいただく、それにはpd診療、pdの考え方、pd論理というのは正に好都合だなと感じております。

以上が肯定側の立論です。

否定側質疑

司会者:ありがとうございました。どうでしょう否定する方いますか?

Ms三明:一応否定側のチームからと言う想定で質問します。昔はエンドの専門医全員、顕微鏡なしてやってこられました。pdpの中にもエンドをする時にマイクロ使ってない先生いますよね。大変良く見えると仰った。その事で良く見える状態で治療した場合と、ブラインドというか使わないで治療した場合に臨床的なアウトカムに長期成績に両群で差があるというエビデンスがあれば教えてください。

Dr前村:僕の知る範ちゅうではそのエビデンスはないと思います。僕自身がマイクロスコープを使った患者さんとマイクロスコープを使ってないという患者さんに差があるのかと言うと、たぶんないと思います。あったらマイクロスコープを使ってなかった時自分は下手くそだったということになってします。自分を自己否定してしまうことになります。
ただどういう根管の形態かというのをX線写真とか、今まで学習してきた解剖学とか、そういった知識だけで治療するのと、見えた状況で治療するのとでは術者の余裕が違ってくるのです。はっきり、安心まではいかないにしてもかなり見当がつけられる。どっち側の面にベクトルかけてファイリングしたらいいのかとか、僕の中では無駄が少なくなりました。
アウトカムの差があるかとのエビデンスは、これから出てくるかもしれませんが、そのパラメータをどうするのか、何をもって良し悪しを判断するのか、大いに議論があって纏まらないのじゃないかと僕は考えています。質問に対しては、今エビデンスがあるかと問われればノーとさせていただきます。

司会:他にありますか。

Dr塙:今説明頂いた中にアシスタントは全く出てこなかったのですが、いかがされていますか。

Dr前村:最初は僕の診療所のスタッフも戸惑っていました。ただ彼女たちは僕の性格を良く分かっているもので、「また先生何か買ったわ」と、私がF3好きというのを知っているので。ただ彼女たちもアシスタントのpdというのがある訳ですよね。だからこそエリアキャビネットがあり、エリアキャビネットとFeel21との距離関係、角度関係、高さ関係というのが演繹されました。
100%ストレスないかというと、彼女たちに訊いてみないと分かりませんが、別に何ら教育することなくそのまま使っています。後の否定派の時にまた説明します。

司会:会員以外の方も質問受けますので何かありませんか。もしなければ今度は立場を一転して同一人物である前村先生が否定派のプレゼンをしていきます。ではお願いします。

Dr前村:変ですよね、自分が今まで言ってきたことを否定するのですからピエロみたいなことをしてるんですけど。でも皆さんの中にも当然あると思うのです。何が何でも100%OKだということは実際ないと思います。どこまで許容できるかということです。僕が日々の診療の中で感じているストレス、マイクロスコープを使っている中で良く見えるという興奮があると同時にストレスがあるのです。それを否定側の立論としたいと思います。

否定側立論

<スライド13>

先ほどpd条件をしっかり構築していけば、マイクロスコープがスパンとスイートスポットに入ると言いました。確かにそうなんです。しかし先生方、形成している時、特に外側形成している時にずーっと同じポジションでやっておられますか?僕の場合、本当に細かい例を上げると、ma11の外側性形成している時にはmi1がちょっと動くのです。

ちなみにそれを非常に容易にしているのがFeel21のオペレイティングスツールだと思います。キャスターではない固定式ですが、つま先にちょっと力入れるだけでクルンと回る非常に素晴らしいOSで、追従していきます。患者さんのヘッドをローテーションする場合もあるのですが、形成途中で止めたくないので、なるべく自分で動くようにしながら、最適なコントロールのポイントを見つけながら形成しています。ma11でそうですからma17の外側性形成、或いは頬側遠心隅角あたりやる時などしょっちゅう動いています。12時から1時位まで。

ということはその度にマイクロスコープを動かさなければいけない訳です。できるだけ再セッティングしたくないので、ミラーが追っかけられる範囲で追いかけるのですが、ミラーが追い付かない場合もあリます。ミラーが追い付いたとしても、そのポジションというのは、インスツルメント持っている手首がちょっと曲がるのです。ベクトルの変化で角度が変わってくるのです。このくらいだったら許すけれども、先生方どこまでだったら許せます?あるいはmi5もそうです。これがレファレンスとするならば、どの辺まで許せます?このあたりで済ませるか、いや嫌だ、正確な処置がしたい、自分のためにも患者さんのためにも満足するためにはこれ嫌だ。pdを追求するとポジションがどうしても動いていくのです。その度にマイクロを動かすのってちょっとどうなんですか、と僕はストレスを感じております。

<スライド14>

まだあります、これは僕の中ではまだ解決していない問題です。

僕は今年55歳になります。見た目より老けている、と言って欲しいですけど、その通りの年代です。55年間かけていろんな感覚情報を統合してきたわけです。ここにペットボトルがある。このペットボトルを取るにはどれくらい腕を伸ばして、どれくらいの力で把持して、骨格筋をどっち方向に動かしたらいいかと言う事は無意識の内にやっていますよね。生まれたての赤ん坊にはそれはない訳です。それを学習しながら成長し、全ての感覚を統合していく訳です。

さてマイクロスコープを使う際、マクロスコープの接眼レンズを見ている視線方向で脳はどっち方向に手を動かせとか、距離を判断するわけです。経験に照らし合わせて運動指令を、例えばこの場合だったらこの辺に動きなさいと指令が行くわけです。ところが実際の映像は真上からの情報なんですね。

僕が55年間経験してきたその経験は、視線方向からの運動指令、運動感覚です。だけどマイクロスコープ使用時は光軸が捻じ曲げられていて真上から見ています。勿論この角度は変えられますけれど、完全に一致させることは今のところできません。

マイクロスコープ使用時は、約45度強、頭の中で角度の変換をしないといけない。今真上から見ている映像だ、と自分の頭の中に念じて、上から見たらたぶんこっち方向に手を動かしたらいいはずだ、と言うふうにやっているわけです。知恵熱持ってきます、熱くなってくるんです、45度変換やっていると。

まだ形成している時は何とかなります。ミラーを使うと、ミラーがその辺の誤差を吸収してくれます。ですからミラー反射像の方が脳内変換が少ないのですね。

ところがマイクロで言う直視像の方が僕は混乱します。何故そうなるのかデータ分析していないですけど、実際そうなってしまうのです。せめて形成している時は頭の中で変換すれば何とかなるんですが、ふっと気を抜く時があるのです。どう言った時に気を抜くか、作業が終わって口腔内からインスツルメントを取り出す時、インスツルメントで唇をひっかけそうになるのです。

実際にはかなり唇と距離はあるのですが、マイクロからみると距離が近く見えたりする。ものすごく脳が混乱するのです。そうすると探針とかタービンの先で唇とか頬粘膜とかをピッとひっかけそうになるのがすごく怖い。

僕はそれの対策として一旦止めてフーっと深呼吸してから取り出すようにしています。
実際にトラブルや怪我をさせたことはないですが、頭混乱しますので。

熟練しておられる先生方に訊くと、すぐに慣れるよ、おっしゃるのですが、どれくらいで慣れるかは教えてくれない。僕はこれを使ってもう5年位になるのですが、今だに前歯の隣接面の充填においては良く見えるのですが、ここだけは使いたくない。すごく怖いという状況です。

だから某A社のカメラ型をこの辺(頭頂)に置いて投影したら、少しでもその角度を吸収できないかな、と考えたわけです。

pd診療の場合はそうでない先生方と比べると、0ポイントが高位ですから、Feel21以外の診療台使われている一般の先生方との違いは結構この辺だったりするのです。

下(おへそレベル)でやるよりも上(胸骨レベル)でやった方が当然視線角度の誤差というのが大きくなります。

pd診療で作業点が上に上がるということは、この視軸のエラーが大きくなってくる。作業点を下げれば視線軸はそんなにも変わらないのかもしれないですね。

<スライド15>

次、これはあるWebsiteのトップページから頂きました。基本的に患者さんを地面・診療台に対し水平にて安定させて、その上方には邪魔するものが一切ありません。皆さんこれに異議はないと思います。

<スライド16>

しかし実際の診療ではそうでないことは往々にしてあるわけです。これは私の出張先の診療台です。患者さん導入する時に、よっこらせ、とトレイを向こうに押しやって、はいどうぞと座っていただいてから、再びトレーを寄せる時に、『お前動くなよ、ここから逃れようとするなよ』『怖いと言って逃げるなよ』と、いうふうに束縛してるわけですよね。患者さんは逃れないですよね。
やっかいなことに、「レントゲン写真撮りましょう、レントゲン室に行きましょう。」とまたこのトレイを向こうにやって、戻ってきたらまたここに戻すのですよね。Feel21使っていたらあり得ない。

今さらこんなの見せるなと言う話ですが、実際にはよく見かけるチェアマウント型です。これが支持されているかどうかは分かりませんけれども、普及しているのだな、と感じています。

<スライド17>

今から30年弱前に初代Feel21を製作されていたのですが、その時のコンセプトって何だったのか、あらためて思い出して欲しいのです。

従来での、ライト動かす時に触らないといけないし、いちいち設定しないといけないし、患者さんを起こさないといけないし、滅菌消毒はどうする、とか。セッティングの時にまた時間がかかる。

これを解決しようとでてきた一つの究極形がFeel21という診療台で、実際皆さんが使われています。
それに逆行しませんか?このマイクロスコープというF3が増えることで。

<スライド18>

僕がこれを導入したとき、スタッフが「どんなふうに見えるの?」と言うので、「僕が被験者になるから覗いてごらん。」となったのです。で僕はここに寝ました。そして上にマイクロが設置されたのです。すみません、僕閉所恐怖症なんです。もう叫びたくなりました。ちょっとスイッチ入っちゃったんです、マイクロが来た時に。でも一応威厳も維持しないといけないのでぐっと我慢して平静を装いましたけど、もしその時に生体情報モニターつけていたらバレバレだったと思います。

(右)実際に患者さんの位置から上向きに撮った写真です。これが頭の上に来て、ストレス感じない人いるでしょうか?「何か重そうなものがきた。」「ライカ印あって何だか高そう、ライカのレンズ高かったよな、先生はカメラオタクだったよな。」とか、「コーンと落ちて来たらどうしょうかな。」等。

先ほどの診療台のアームと同じで逃れられないですよね。自由に動けない。これだけ隙間あるよ、と言われてもこの辺のクリアランスは患者さんには見えない訳ですよ。だから「膝も動かしたらダメ、足も動かしたらだめ。絶対動くなよ。」と暗に束縛しているわけです。

筐体のサイズは将来的には大きくはならないでしょうが、小さくなるにしても完全には消せない問題では、と思います。辛いところです。

<スライド19>

まだあります。得てして僕たちは患部ばかり集中してしまいます。普段我々は口腔内、対象のう蝕の部分そして歯周炎の部分だけ見ていてはいけません。患者さんの体調を常に把握していないといけません。全身状況を把握、管理していないといけません。

ではどこを見るのか、やはり顔色です。顔色がすべて物語っていますよね。色ばかりではなく湿潤状態、何か湿っているとか、冷や汗かいてないかとかです。
また頸部が見える時と見えない時がありますが、ここ怒張してないか、ドクドクするのを見ることによってある程度脈拍も分かります。

胸の上下運動、2秒に1回上下するというのは呼吸数が30ですから、トリアージ(triage)では赤です。僕は2秒に1回というのをひとつのメルクマール(merkmal)にしています。2回から3回くらいの間が適切なのではないかを見ておかなければならない。1分間数えていたらだめですよ。何秒に1回動くかを見ておかなければならない。

それから特におばあさんはお口の中触っている時に呼吸を止めてしまうのですよね。口を開けて息ができない、或いは遠慮して呼吸を止めてします。たまたまその時にSPO2見てみると89とか、ちょっと救急車呼べ、とかそういうレベルになるわけです。そう言ったことを把握しないといけない。

それから患者さんの足がもぞもぞする時はどんな時でしょうか?おしっこ行きたいときですか?子供たちだったらそうなんですけれども、以外と多いのは、若い女性が足がもぞもぞというのは過呼吸ですよね。僕の所で足もぞもぞで過呼吸発見というのはすごく多いです、特に若い女性。
マイクロを使うと、接眼レンズに目をつけていなくてもこういう状態(右)になるわけです。どうしたらいいだろう、アシスタントに観察してもらうしかないですよね。

<スライド20>

先ほど塙先生からアシスタントの質問がありました。アシスタント、実は大変です。
これだけ注目しないといけないのです。

先生はマイクロに一生懸命になってここばっかり集中していて、患者さんを見ていない、いや、見ているばかりではだめでしょうが。ドクターはここ作業点に集中している訳です。

そうするとドクターは他に何にも見えないから、アシスタントが患者さんの顔色を見、胸の上下を見、それから今何の治療をしているのか、バキュームの位置もだいたい見たい、口腔内の状況も見たい、それから生体情報モニターを見ていたらSTの下降・上昇は?、SPO2は今97、とかこれらを随時見ないといけないんです。

もしマイクロスコープがなかったとしても、アシスタントの役割はとても大事で、もちろんチェックはしてもらいますけれども、本来この大部分は先生が見ますよね。

それからインスツルメントを粘膜を引っかけないようにするために、口腔内に挿入する時に、介助しながらこの辺に持って来なさいよと誘導しているのをマイクロスコープのコース内でも聞いたことがあります。でも撤去するときに誘導しなさいとは聞いたことがないんですけど、その時に僕は口唇にインスツルメントを引っかけそうになるんですね。

<スライド21>

まだあります。
使ったら洗う。

僕が使っているM320は滅菌対応のカバーパーツが沢山あります。
ハンドル、つまみ類とか全部外せて滅菌できます。それから以外と多いのですけれど、
(右)ここ(対物レンズカバー)に削りカスとか水滴が一杯つくんです。

それをつけたまま、次の患者さん診ていいですか。
「ワー、ここの医院ちゃんとしてない!」
ともうモロばれてしまいますよね。

レンズカバーは複数用意して、その都度消毒液で洗ってます。
それで手間が増える。

Feel21のコンセプトからするとタッチレスですよね。タッチレスは正に今旬だと思うんですが。

触ったところは当然滅菌しなければいけない。コロナはエタノールで死にますよ。が、HBVはエタノールで死にますか?HBVを殺すにはオートクレーブしかないんです。
これ(左)はオートクレーブかけれますが、機種によってはかけれない。その辺も気を付けなければいけない。
以上です。

肯定側質疑

司会:ありがとうございました。

一転してこれ聞くともう買うの止めようかな、と思いません?そこまでしてやる必要ないな、と私はコロッと変わって思ってしまいましたけど。でもそれで終わってはいけないのですね。

実際に使っていて、こんな対応も可能だよ、とかそんなことは大したことではない、とか、何かありませんか。つまり肯定する、pd診療にとってマイクロスコープは絶対有効だ、必要なんだと、だから今のことに私は反対します、という肯定側質疑ありますか。

Dr中村:うちにはマイクロスコープは置いてないので、肯定側の質問というのは本当はできないと思うのですが、先ほどから聴いていて、術者目線、アシスタント目線というのがあるんだけれど、圧迫感というのを聞いています。

ただ一般医科などで、例えば脳に障害があるとかでMRIを撮ります。あれはかなりの閉塞感があるらしい。ただ閉塞感があっても最新の器機で治療してもらった、という満足感は患者さんにあると、このマイクロ使った時の患者さんと、使ってない時の患者さんの満足感の違いというのはあると先生は思いますか?

Dr前村:あると思います。

先ほど三明さんから治療のエビデンスはあるのかとの質問に、知りえないと答ましたが、実際患者さんにマイクロスコープを使った時の診療と使ってない時の診療を比較して、満足度の違いに大きなエビデンスが出るのかと言うと、分からないです。

でも一つ言えるのは、MRIよりましかなとは思います(笑)。
僕はたまたま反応してしまったのかもしれない。先生には僕の診療所見てもらったからお分かりと思いますが、実は僕はこの(会場の)天井の高さもダメなんです。天井高4mないとダメなんです。僕の診療所の天井の高さは4mあります。自宅の部屋も高さ4m。

尚且つこんな(会場の)窓のない部屋も最悪です。大阪モリタの2階のpdルームは、ほんの小さな窓が一個あるだけなもんで大変なんです。個人差があると思いますが、実際にそれを感じている人間がここに一人いますので、それはちょっと配慮が必要かと思いますけど。

司会:どうでしょう、もうお一方くらい?実際使っていてこういうメリットの方が勝つよ、とか、先生のやり方が間違っているよ、とかないですか?肯定側はいませんか?今日の方は肯定側はひとりもいないということでしょうか。或いは、肯定側だったのだけれども、今の前村先生の意見で、自分は否定側だったと気づいたことになるのでしょうか。それはそれでいいのですが、もし質問があったら今のうちに。はい、お願いします。

Dr黒岩:

これはテーマに合っているかどうか、2つのうちどちらかということですので議論が逸れるかもしれませんが、拡大鏡を使用した場合との比較においてマイクロはどうなのかという点について伺います。

前村先生はいくつかのマイクロの欠点を指摘されましたけれども、拡大鏡を使った場合は視線が変わりませんよね。光軸が曲がりません。それから術者が位置移動をしても拡大鏡も同時に動きます。そうしたら拡大鏡を使った方がマイクロよりずっと良いのではないかと思いますが、これに対してはどうお考えになりますか。

Dr前村:ちょっとスライドを戻させてもらいます。
<スライド5>

(首の拡大ルーペを示し)拡大鏡使ってます。
つまりマイクロスコープを使ってない時、実は拡大鏡を使ってます。

何故使っているかと言うと、老眼、遠視でもあり近視でもある。僕のピントの合う範囲と言うのは(パントマイムで)ここからここまでです。これをF3で拡大している訳です。眼鏡で近くを捨て遠くをとって、拡大鏡で遠くを捨て近くをとっている、と言う状況で大変です。

つけたり外したり、つけたり外したり。ですけど一回つけるとなかなか手放せないですよね〜。
でもこれ使うと目が楽をしてしまうので、目が悪くなるのではという気がしないでもないです。でも先生がご指摘のとおり、視軸のずれはなくなります。

それからこれは拡大鏡の縁がないタイプなので、ある程度ですけれども患者さんの状況も把握できます、見えます。ただ得られる情報量としては圧倒的な差があります。

拡大鏡で眼鏡のこの辺にレンズをつけているのがありますね、この辺に電気をつけてこの辺にバッテリーをついてる。あれで例えば40倍位に拡大して見たらどうなるか。
たぶん相当ぶれると思います。

それから一点で固定するのはとても難しいと思います。いくらpdだと言っても多少は動きます。そしたら視中の情報はこんなに動くわけですよ。

マイクロスコープの利点は何かと言うと、固定している。それが仇にもなっているわけでもあるのですが、固定しているメリットというのがやっぱりあると思うので、そこが眼鏡タイプの拡大鏡と固定タイプのマイクロスコープを使った拡大の大きな差かなと思います。

司会:他にどなたかいらっしゃいますか?

Dr三原:肯定側かどうかは分からないのですが、論点を整理したいと思います。否定側の意見は今の現状のマイクロスコープのカタチに関する否定ということですね?

マイクロスコープは拡大鏡、或いは顕微鏡としての有用性を認めたうえで、その機能を発揮するための現状のマイクロスコープの形状・構造がpd診療には完全には適していない、と理解したらよろしいでしょうか。

Dr前村:そこは突っ込んで欲しくなかったところです(笑)矛盾しています。はっきり言って矛盾しています。

敢えて短い文で言うならば、僕の歯科診療の中ではマイクロスコープは必須です。

先生方の治療スタイル、ルールあるのでこれを押し付けるつもりはないですけれども、僕の中の治療方針、治療内容からすると、僕はもうマイクロスコープは手放せない。

ただ、pd診療やっている中で、じゃ100%マイクロスコープを受け入れられるのかというと、正直ストレスを感じている訳です。
言い方を変えたら、今のマイクロスコープから僕のストレスをなくしてくれたら、もう完璧ということになってきます。

でもないものねだりしてもしょうがないので、どこまでのことができるかな、と日々考えながらしている、というのが実情です。だから本当にストレス感じるんだったら売っぱらえばいいのですが、売れない、欲しい。ずるい答えですみません。

Dr三原:となると、先生が理想的に、近未来に、30年、40年後に理想的なマイクロスコープを作るとすればどのようなものなのでしょうか?僕の中では黒岩先生がおっしゃったようなウエアラブルなものがいいんじゃないかと思ってたんですけれども、先生は固定されている方がいいコメントされました。先生の理想とされるのはどういうものなのですか。

Dr前村:マイクロスコープに限らず患者さんの情報が欲しいわけですよね。
根管の形が欲しいとか、どれくらいまで今形成しているか、位置関係を僕は欲しい訳ですけれども、だったらその森ばかりではなく体の木々まで全く無害なCTがあって、リアルタイムで見れるなればそれもありですよね。

或いは、最近ダビンチとか今遠隔でできるのがのがありますよね。バーチャルか何かでできるというのもありますよね。要は私たちのpd診療で普段やっている精度を何らかの方法で提供してもらえたら別にマイクロスコープでもいいし、何か新しいものが出てきてもいいかなと。

僕がちょっと期待しているのはTVのCMで車でバックする時に、実際には上にカメラがないのに上からのカメラ目線で誘導させるのあるじゃないですか、デジタルデータで上手く変換してくれたら、真上からの情報を自分の視軸に合わせてモディファイしてくれないか。現時点の技術では解像度が全然足りないと思うのですが、今後解像度は悪くはならないはならないと思いますし、筐体が小さくはなっても。そういう風にデジタル処理はやろうと思えばできるんじゃないかと思うのです。

マイクロスコープに限らず、患者さんのデータを欲しい、ただそのデータを手に入れて治療の差にでるのかどうかのエビデンスの話に行くのですけれども、やっぱり知りたいですよ、細かいところを。

司会:ちょっと質問とか答えがぶれてきているので、ここで休憩を入れます。最終的にこの次は今の否定側の反駁といいますか、最終結論を出していただきます。その後肯定側のものを出していただきます。その後挙手によって賛否を問う、と言う形式になりますので、5分ほど休憩を入れます。
(休憩)

司会:では再開致します。最初に否定側の反駁をやります。これは最終結論です。否定側の立場に立った前村先生が、これはダメだろう、という決定打を出します。その後入れ替わった肯定側の前村先生が、こんな事できるのは他にあるのか、というのをお見せします。

その後シンキングタイムでどちらか決める、でも決められないですよね。特に今回は歯科医師の方、衛生士の方もお見えですし、実際にオペレーターでない方もお見えですので。論理の出し方が肯定側と否定側とどちらが正しいのかというのを競うのが本来のディベートなんですが、だいぶずれてしまっています。

実際臨床でお使いの方もいるし、全然医療やってない方もおられるので、想像として、実際今持っていて絶対もう手放せない、と言う方は肯定側で、あるいは今まで考えていて是非買おうと思っていたけれどやっぱりやめよう、と思う方は否定側、というそんな感じで軽く考えていただければと思います。悩んでも決めなければいけないので、それだけはルールとして全員に挙手を求めます。では最初は否定側の反駁として決定打をお願いします。

Dr前村:僕が最も重要視している、一番の悩みのところを否定側の立場として言わせて頂きます。

否定側反駁

先ほどma11の形成のところでちょっと動かすと、ポジション変わると、12時の位置から12時半に行ったり11時30分に行ったりとか、頻繁にあると申しました。その都度マイクロスコープを動かすのは面倒、ということになるのですが、否定側なんですが、少し肯定側も入れます。それは基本的にマイクロスコープの水平の回転移動時です。
実は僕は右手でタービン持って左手でミラー持っている時に、マイクロスコープを回転させる術を持っているのです。(メガネの鼻パッドを指さし)これで動かすのです、眼鏡。本当に上手くマイクロスコープの関節の調整をすると、眼鏡が接眼レンズに当たっているわけですけれども、これを動かせる、左右に引っ張れる。

だから形成しながらmi1を変化させ僕はマイクロスコープを回転させているのです。だから形成に関しては実は、否定側の立場ですがそこは許せる範中です。
<スライド22>

ところが許せないところもあるんです。それはEndoの時です。僕は形成の時とかインスツルメントを使ってEndoをする時の0ポイントは胸骨の前ハートレベルなんですが、根管口に手用ファイルを挿入したり、手リーミング・ファイリングする時は、実は作業点を少し下げたいのです。スタマックレベルまで下げるのがお気に入りなんですが、マクロスコープは水平に回転移動は眼鏡鼻でできても、上下に焦点移動するのは眼鏡鼻では不可能です。やはりツマミを回さなければなりません。

ところでEndoやってる時の先生の右手ってきれいですか、血だらけですよね。スタンダードプリコーションですよね。そこで触ったものはオートクレーブしなくてはいけません。ですからマイクロに触らずに無理やりしようとすると、スライドのようにpdが崩れます。

(左)スライドを解説しますと、#1557バーで形成、チャンバーオープンまで行きました。マイクロで根管口見えてきて、ファイルフォルダーインスツルメントでも良かったけれども…

(中央)ちょっと手指で拡大しようとなった時ににこうなってしまうのです。横から見ると肘がさらに前に出ます。太っているとか、そんなレベルじゃない、相当前にでます。手首も許容できない。

(右)それを前から撮った時の写真です。脇開いています。

僕はHファイルを好んで使うのですが、脇を開けながらHファイルを使うのは極めて危険だと思います。あれは鉋(カンナ)なんです。
同時に非常に繊細なセンサーでもあるわけですが、脇あけて、手首曲がってHファイル使えますか?辛いですよね、辛いというよりやってはいけないでしょう。じゃどうするのか。

<スライド23>

10時半くらいまでmi1回転移動します。そして患者さんを下げます。そうすると体が喜んでくれます。脇が閉じます、手首まっすぐ。この位置までマイクロスコープも回転移動させて、尚且つ患者さんを上下動をさせた分、マイクロスコープを下げるにはどうしたらいいか….。

いやいやマイクロスコープ本体を下げてはだめですよ!接眼レンズも一緒に下がりますから。

何を下げるのか、焦点位置を下げるのです。焦点位置を下げるつまみがここについています。このモデルはオプション付きで、焦点距離を20㎝から30㎝調整できます。ですからここを回せば作業点はスタマックレベルまで焦点が合うのです。

でもつまみを持たなければならない。そのつまみを持つ指は血だらけです。

ともかく触らないといけないのです。触りたくない、それに両手を離したくないのです。ですから回転は何とかなるのですが、焦点距離を変える上下、ピントを上下させるところに困っているのです。僕の中では解決できていません。

だからEndo主体で、Endoにしか使わない、チャンバーオープンまでは、あるいは根管口明示までマイクロを使わず裸眼で行くという先生方は、最初からマイクロスコープをこの焦点距離にしておいてEndoの時用にここにセッティングすればいいわけです。

だけども複数根管の場合、例えばma16の場合、各根管のベクトルってどうですか。同じ方向じゃないですよね。特に近心頬側管などはもうアクロバアティックな手首の回転しなければならない時
ってありますよね。そういうことを考えると、その都度セッティングを仕直さないといけないことは間違いないと思います。単根管だったらいいと思いますけれども。

ですからリセッテイングというかリポジショニング、そのへんの問題が僕の中でのマイクロスコープの是か否かの否の部分です。これが否定側の隠し玉です。

司会:ありがとうございました。逆に言うと、そういうのが解消できるのであればとても良いということになる訳ですね。できるのかな。ま、モリタさんがいずれ考えてくれるのでしょう。

今のが前村先生の否定側の反駁、こういう理由でpd診療にとってマイクロスコープはマイナスで使うべきではない、という結論でした。今度は肯定側の反駁をお願いします。

肯定側反駁

<スライド24>

Dr前村:先生方の日常の診療の中で、絶対抜かないで、と言う患者さん結構いませんか?
何故歯医者が嫌いなのか。麻酔が痛い、削られるのが嫌、歯を抜かれる、だから患者さんにとって歯を抜かれる抜歯というのが極めて避けたいことで、僕のところでは一日何回もそれ言われます。

患者:「先生は抜かないという評判を聞いた」
私:「いや抜くよ、あなたのこの歯はだめ、このまま置いておくと上顎洞やられるよ」
といくら言っても、
患者:「そこを何とか、先生のウデだったらできるでしょ」
と言われませんか?絶対言われているでしょう?
患者:「そこは先生分かったけどやっぱり何とかして下さい今回だけ」
これで何回目かという話ですよね。本当に多いパターンだと思うのです。
そういう方を納得させるためにこの写真を使いました。

(左)これで抜かない?と。口蓋根だけヘミセクションする、とか。でも半分抜くのでしょう、半分抜くのだったら全部抜きましょうよ、という話です。

(右)もう一つはマイクロでこそ良く見えたのが右側の症例です。何か変な動揺をしてるなと感じていた歯です。これは通常の口腔内写真では説明できずこれは何とかいけるかもしれないと迷うかもしれない。そういう風に土俵際まで粘りに粘った患者さんに止めを刺すのがやはりランゲージパフォーマンスの中での情報提供だと思います。マイクロのその説得力は素晴らしいです。

例えれば、血圧が高い患者さんに、
私:「今日は診療だめ、もう200超えてるよ」
患者:「でも私はこれくらい普通なんです」

と言う患者さんを説得するのに、当院では生体情報モニターつけているのですがもうピーピーいってるんですね。患者さんは納得して帰ってくれます。

患者さんにプレゼンテーションをする、或いは記録を取っていくという点でマイクロスコープに勝るものはないと思ってます。ペン型の口腔内カメラを買おうかどうか迷っているのですが、判断基準はこのレベルの情報が撮れるかどうか。

纏めると、モーターパフォーマンスでも先ほどからいっているように、僕自身の気持ちの余裕が出てくるのです。私の体へのストレスはあるとしてもそれに勝る情報量がある。

もう一つはランゲージパフォーマンスの中でその患者さんを納得させるツールとしては究極かなと思います。だからこれを得られるのであれば、まぁ少しは手首曲がってもいいかな、ということになってきます。これに代わるものがあればいいのですが。しかも動画も撮れますからね。それも術者目線と全く同じ映像が記録できるというのは大きいです。これが肯定派の反駁です。

判定

司会:ありがとうございました。前村先生には一人二役はここまでですのでしばらく休んでいてください。手をあげて肯定否定を問うのですが、別に正確に数を数えたりどの人が肯定したとか読みません。だいたい目安で6:4かな半々かな、2:8かなとか、我々も知りたいのでお願いしているだけです。迷うと思います。

要するに良い点と悪い点がクリアになったわけですから、どちらか選べと言われたら迷って当たり前で、決めるのは無理だというのが多くの人の答えではないでしょうか。両方ともというのはだめなんです。1分ほど考えてください、それから手をあげていただきます。お願いします。

その後、一人二役をやっていただきた前村先生に、さらにひとりの歯科医師としてやってみて、本当に伝えたかったのは何だったのか、本当はこう思っている、とかをひとりの人間として話していただく可能性があります。

それではだいたい決まりましたね。論題を繰り返しますが「pd診療にとってマイクロスコープは必要である」肯定の方手をお挙げください。
ありがとうございます。
では否定の方手を挙げて下さい。
ありがとうございます。

さっとみて半々くらいでしょうか。素晴らしい。
ではディベーターの前村先生に温かい拍手をお願いします。最後にまとめとして一言お願いします。

Dr前村:このような結果になりまして、一安心しております。越智先生狙っていたとおりになりましたね。でも正直なところ、そこじゃないかな、と思います。
そんなにすぐ物事の良し悪しは決まらないと思うし、これ買うと即答できる人はいないですよね。
ですからきっと皆さんご自身の中で悩まれている日々のことが実はひとりディベート、そのへんに利用していただけたら嬉しいです。
<スライド25>

今回のやったひとりディベートした僕の最大の目的は何かと言うと、改めてこのレイティングのことを意識していただけないかということです。
実際完璧ってないじゃないですか。Feel21を使っている、それなりにpd診療をやっている。だけど患者さんの体形とか、患者さんの性格とかいろいろな理由があって理想的なポジショニングが出来ない事もあると思うのです。それがどこまで許せるかということになります。

Referenceに対して許容できる範中だと、先ほどの手首、どれくらいまで曲げてやってもいいですか、というところですよね。いやいやちょっとでも曲がってはいけない、という先生も当然いると思うのです。いや、90度くらい曲がってもかまわないよ、と言う先生もひょっとしたらおられるかもしれない。先生方が自ら自分の体に訊いていただいて、改めてpd論理を組み立てた中で自分のポジションを見つけていただいた中で判断していただいたらどうなのか、と思うのです。

今回はマイクロスコープを一つの題材にしたわけですけれども、たかがマイクロスコープですよ。こんなのこれからいっぱい出てきますよ。実は僕のところで今同じようなF3で悩んでいるのがもう一つあるのです。
レーザーです。使うとやっぱりいいんですよね。いいんですがグリップがめちゃくちゃになるし、脇が開いてしまう時もあるし。だからあの状況というのはほとんどの方がもう許容できません、という状況です。
そもそもFeel21のトレイ動かないですよね。レーザー本体はあそこに設置しないといけないんですよ。そもそもそこ置けない。でも使っているのは何故か。それでも僕は僕の診療に欲しいと思ったから使っています。

先生方にはマイクロスコープのいくつかの僕の実際の症例を見ていただきましてけれども、そのどのレベルで納得得られるか、それからマイクロスコープもこれからどんどん進化していくわけですから、今は改良の必要があると言われても、これだったら許容できるよねっていうのも出てくると思います。

ほんの10年程前はこれですよね、殆どが2番、3番ですよね。でもウルトラローがでてきたので2から1になった、と言う人がいるかもしれない。僕もそうです。ウルトラローがなかったら買ってなかったと思います。

ですから先生方もご自身のpdを改めて見つめ直して頂いた上で、人から言われて決めるのではなくてこの区分けを参考にしながら自問自答していただけたら、そういう癖を改めてつけていただけたら、僕は本望です。今日はありがとうございました。

司会:ありがとうございました。自画自賛じゃないですが、大成功だったと思います。